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「悲劇の悪役令嬢」と呼ばれるはずだった少女は王太子妃に望まれる  作者: 冬野月子
後日譚

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08

「――ではこの件に関しては実地調査へと移そう。ルドルフ、いつから動ける」

「は、人員の手配はついていますのですぐにでも」

「さすがだな。日程の調整は任せる」

エルネスト様は一同を見渡した。

「今日はここまでにしよう、ご苦労だった」


今日は王宮で開かれる会合の日。

王太子エルネスト様を中心に、若手が集まり政治など国内外の問題を議論する場だ。

その内容はエルネスト様が既に任されている実務といった具体的なものから、この国の未来についてという漠然としたものまで様々だ。


参加者はニコラ殿下やエルネスト様の側近である侯爵子息のルドルフ・ドゥファン様を中心に、彼らがその能力を認め集めた貴族の子息や、中には文官として王宮に務める平民もいる。

そして女性は私とソフィア様の二人。

もっと女性を増やしたいのだが、議論についてこられる者がなかなか見つからないそうだ。

――正直、私には理解できないことも多々あるけれど、ソフィア様は普段から勉強していたのか積極的に男性陣と意見を交わしている。

その知識と考察力は『男だったら側近になれるのに』とルドルフ様が言うほどで、そんなソフィア様は今、ニコラ殿下の婚約者最有力候補として周囲に認められつつある。

ゆくゆくはニコラ殿下がドルレアク公爵家に婿入りし、臣下としてエルネスト様を支えていくことになるのだろう。


本来ならば大きな障害であった年齢を、自らの能力で些細なこととしたソフィア様は本当にすごいと思う。

私は……お妃教育をこなすだけでまだまだ精一杯だ。




「リナ様、お疲れですか?」

会合後、ティールームへと移動しお茶を飲みながらアリスのことを考えていると、表情に出ていたのだろうか、ソフィア様が尋ねた。

「お妃教育だけでも大変ですのに、婚約の準備やこの会合の勉強などお忙しいのでしょう」

「ええ……でもそれは大丈夫です」

確かに忙しいけれど、それらは自分で解決できることだ。


「他に心配事が?」

「ちょっと……家のことで」

「もしかしてユリウス殿の件か」

エルネスト様が口を開いた。

「ええ……」

「まあ、どうかなさいましたの」

「お兄様とアリスの婚約話が出ているのですが、アリスがお兄様に慣れてくれなくて……」


「まあ、アリス様がユリウス様と?!」

ポン、とソフィア様は手を打った。

「それはおめでたいですわ」

「アリス嬢?」

「お妃選考会に参加したデュパール子爵令嬢ですわ。可愛らしいのにリナ様を盾になって護る豪胆なところもある方ですの」

首を傾げたニコラ殿下にソフィア様が説明して、私を見た。

「もしかして、リナ様の命の恩人だからですの?」


「それも理由の一つと聞いています」

そもそもアリスが我が家に滞在することになったのは、私の代わりにコゼットに怪我を負わされたからだ。

私の恩人であるアリスへの、お兄様の好感度は元々高かったのだ。

「素敵なご縁ですわね。でも慣れないというのは?」

「ええと……お兄様の見た目が好み過ぎてまともに見られないとか」

「あら、まあ」

「……好みならずっと見ていたいものでは?」

不思議そうにニコラ殿下がエルネスト様と顔を見合わせると、エルネスト様は頷いた。

「私はずっとリナを見ていられるな」


「ふふ、でもユリウス様には緊張してしまいますわ」

ソフィア様は微笑んだ。

「……ソフィア様もですか?」

「ええ、ご挨拶程度しかお会いしたことはないのですが、いつも近寄り難い雰囲気を放っておられますの。たまに視線が合うととても冷たい目で見られて」

ソフィア様はお兄様が嫌うようなタイプでは決してないはずなのに、そのソフィア様にもそんな態度なのか。


「私だけでなく、女性にはいつもそんな風ですの。冷たくあしらわれた女性が泣いているのを見たこともありますわ。ですから、アリス様が心配ですわね」

――『氷の王太子』と呼ばれていたらしいエルネスト様よりも、お兄様の方がよっぽど『氷の貴公子』なのでは?

家と外での余りの違いに驚いてしまう。


「……お兄様はアリスには優しいです」

「そうだな、確かにユリウス殿はアリス嬢へは威嚇していなかった」

我が家に来た時を思い出したのかエルネスト様が言った。

――というか女性へ威嚇って!


「まあ、そうですの」

「おそらくユリウス殿は身内と認めた者には心を開くのだろうな。……私へは未だ警戒しているようだが」

エルネスト様がため息をついた。

「そうなのですか」

「たまに睨まれるよ」

睨む? 王太子殿下を?!

「そ、それは申し訳ありません」

「ユリウス殿からしたら、私は大事な妹を奪った憎い男だからね」

慌てて頭を下げるとエルネスト様は笑顔でそう答えた。



「顔が好みで優しいのに慣れない……よく分からないですね」

ニコラ殿下が唸った。

「……立場の違いもあるようです。アリスは子爵家ですから身分の差が気になってしまうようで」

「私へははっきり意見を言っていたが?」

ニコラ殿下に答えると、エルネスト様がそう言って眉をひそめた。


「え、ええと……」

「つまりアリス様はユリウス様だけを意識し過ぎてしまうのですね」

言葉に詰まった私の代わりにソフィア様が答えた。

「そう、です。来月の婚約発表式の時にお兄様がアリスをエスコートするので、あまり時間がなくて」

「アリス様は毎日ユリウス様とお会いしているのに慣れないのですよね。あと一ヶ月でどうにかなるものかしら」

そうなのよね……三ヶ月で慣れないのにあと一ヶ月でって。厳しいかな。

それに、この婚約のことでアリスが何か悩んでいるように見えるのも気になるし。


アリスは昔から私に何でも相談してきたけれど、本当に悩んでいることは言わない子だった。

だから無理には聞き出せないけれど――アリスの人生に関わることなのだから、知りたいと思う。


「この間のダンスの練習の時は段々慣れていたようだったが?」

エルネスト様が言った。

「はい……なので昨日も練習をしたのですが、婚約のことを言われたせいでアリスが変に意識してしまって。またぎこちなくなったんです」

更にスパルタモードに入ったお母様からの叱責にも萎縮してしまい、大変だった……。


「うーん、あ」

ニコラ殿下が思案顔を見せると、私たちを見渡した。

「今度皆で遠乗りに行きますよね。その時にユリウス殿とアリス嬢も誘ってみるのは?」

「遠乗りに?」

「二人乗りしてもらって。さすがに馬上では逃げられないし密着し続ければ慣れるんじゃないですか」

「まあ、いい考えですわ」


(遠乗り……そういえばすっかり忘れていた)

そんな予定が入っていたのを。


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