03
「ユリウス様とダンスの練習?!」
アリスは悲鳴を上げた。
「無理い!」
「そんなこと言ったって、婚約発表式の後のパーティーでお兄様と踊らないとならないのでしょう」
「どうして?!」
「だってお兄様のパートナーだもの」
夜会などで踊る時は、一曲目はその日のパートナーと踊るのが決まりだ。
今回は王家主催のパーティー、しかもお兄様は王太子の婚約者となる私の兄である。相当注目を浴びるだろう。
それなのに相手のアリスが挙動不審でダンスが失敗などしたら目も当てられない。
だから事前に練習してお兄様に慣れてもらわないと。
そう言うとアリスの顔が青ざめた。
「そ、そもそもどうして私がユリウス様にエスコートされるの?!」
「それは……アリスは今うちのお客様だから?」
まあ、それだけではないと思うけれど。
家族が執拗にアリスをこの家に留めておこうとしたり、自分たちの外出先へアリスを同行させること。
そしてお兄様がアリスと親しくしたがっていること。
それには私の恩人であり、前世の妹であることは別の理由があるのだと思うのだけれど――憶測なので、それをアリスに言うことはできない。
(でも、今日のドレス……あの色って、お兄様の髪色よね)
青はロンベルク家を象徴する色だ。
お母様から借りるアクセサリーも、あれはお母様の母国の特産であるローズダイヤとロンベルク家の色の石であるサファイアを組み合わせたもので、両家の友好を願い嫁入り道具として特別に作ったものだと聞いたことがある。
ドレスに合うという理由だけで貸すようなものではない。
(誰からも聞いていないから、あくまでも予測だけど)
それでも多分、私の予想は当たっていると思う。
「無理いい」
ぼすっと音を立ててアリスはクッションに顔を埋めた。
「無理でもやるの。練習は明日よ」
「明日?!」
「お兄様楽しみにしてるって。あとお母様が張り切っているわ」
アリスとお兄様のダンスの練習を提案すると、『すっかり失念していたわ』と声を上げたお母様の瞳が怪しく光ったのを見逃さなかった。
――あれはやる気満々だ。
アリスが無事だといいけれど。
「……お姉ちゃんの悪魔あ」
そんな私の心が伝わったのか、恨めしげな瞳が私を睨んだ。