02
「わあ、素敵!」
ドレス姿のアリスに私は思わず歓声を上げた。
今日は私の婚約発表式に着るドレスの仮縫いが上がってきたので、その試着と調整を行うのだ。
私のドレスは王室で用意してくれるため、今回仕立てたのはお母様とアリスのドレス。
自分の分のドレスまで用意してもらったことに、アリスは恐れ多いと恐縮していたが『リナの命の恩人なのだからこれくらいさせてちょうだい』とお母様に押し切られていた。
光沢のある深みのある青いドレスは、アリスのローズゴールドの髪によく似合っている。
「アクセサリーもぴったりなのがあったのよ」
お母様が取り出したのは、ローズダイヤとサファイアを花びらの形に組み合わせたネックレスだ。
「わあ、可愛い!」
「若い子向けのデザインだからアリスにちょうどいいわね」
「ね、ねえ。これすっごい高いんじゃないの?」
付けられたネックレスを見てアリスは怯えたような眼差しになると私に囁いた。
「そうね……多分それ、お母様の嫁入り道具じゃないかしら」
お母様の母国は宝石の産地で、中でも希少なピンクダイヤモンドが有名だと聞いたことがある。
「え……夫人って確か元お姫様でしょ?! そんなの借りていいの?」
「そのデザインだともうお母様は使いづらいだろうし。仕舞い込んでおくのも勿体無いからいいんじゃないかしら」
身につけて、大勢に見てもらった方が宝石も喜ぶだろうしね。
「ええー。でもこんなの身につけるの怖いよう」
「大丈夫、似合ってるわ」
「そういう問題じゃないの!」
「そうよ、リナの言う通りアクセサリーは女性の魅力をより引き出すためのものなんだから。使ってあげないと可哀想なのよ」
こそこそ話していたのが聞こえたのか、お母様がこちらを見てそう言った。
「そのネックレスもアリスをより綺麗にできて喜んでいるわ。だから遠慮なく使ってあげて」
「……アリガトウ、ゴザイマス」
顔を引き攣らせながらアリスは頷いた。
部屋の扉が少し開くと、侍女がお母様の元へやってきた。
「――ええ、いいわよ」
お母様が頷くと扉が大きく開かれた。
「おお、アレクサンドラ。また一際美しいな」
お父様が入ってくるとお母様に抱擁し口付けた。
お母様が今回仕立てたのは、真珠を散りばめた水色のマーメイドラインのドレスで、私が選考会の最終日の夜会で身につけたサファイアのアクセサリーを合わせている。
とても上品で、華やかだけれど落ち着いた雰囲気もあり、お母様の魅力を引き立てるドレスだ。
「アリスもとても綺麗だね」
お父様の後ろから現れたお兄様がその綺麗な瞳を細めた。
「えっ、あ、ありがとう……ございます」
アリスの顔が見る間に赤くなる。
そんなアリスの傍にお兄様が立った。
――やっぱりアリスはゲームのヒロインだけあって可愛いし、超美形のお兄様と並んでも絵になるのよね。
(当人があんな状態じゃなければだけど)
お兄様に間近で微笑まれて硬直しているアリスに内心ため息をついた。
「アリスは私が苦手なのかな」
お母様とアリスが着替えるので部屋から出ると、お兄様がぽつりと呟いた。
「……あれはお兄様が素敵すぎて恥ずかしがっているだけですわ」
「でももう三ヶ月も一緒に暮らしているのに」
「本人曰く、お兄様は尊すぎるんですって」
「アリスは面白いね」
ふふっと、お兄様はアリスだったら悶絶してしまいそうな美しい笑みを浮かべた。
「王太子殿下の方がずっと尊いのに。殿下とは普通に話せるんだろう」
「あ、ええと……そういう尊いではないというか」
身分が尊いと言う意味ではないのだけれど……前世の感覚は説明が難しい。
「――お兄様は天使みたいなんですって」
「天使?」
「天使のように綺麗で眩しいからまともに見られないみたいです」
「ふうん……?」
お兄様は納得していないように首を傾げた。
「よく分からないけど。嫌われている訳ではないんだね」
「ええ。というかむしろ好きすぎるんです」
「……好きなのに逃げるの?」
「そういう子なので……」
「やっぱりアリスは面白いね。でも来月の婚約発表式は大丈夫かな」
アリスは私の家族と出席する。
その時にお兄様がアリスをエスコートするのだけれど、確かに今のままだと難しそうだ。
「それまでにお兄様に慣れてくれればいいんですけれど」
「ダンスもあるしね」
(ダンス……そうか)
その手があったわ。