01
その後の話です。
番外編として三話くらいでさくっと書くつもりだったのが長くなりました。
「今日もユリウス様が尊かった……」
私の部屋でソファに座り、抱え込んだクッションに顔を埋めながらアリスは呟いた。
「今日は何をしていたの?」
選考会が終わって約三ヶ月。
私はお妃教育のために三日に一度は王宮へ通っている。
家にいる時は大抵アリスと一緒にいるけれど、王宮へ行く日は朝から準備が始まり帰りも夕食後になるため、アリスと会えるのは就寝前のひと時だけだ。
「今日は夫人とユリウス様が孤児院へ慰問に行くのに一緒に連れて行ってもらったんだけど。子供たちと遊ぶユリウス様の姿が……尊すぎて辛い」
「ああ、お兄様って子供好きなのよね」
「そう! 子供に向けられたユリウス様の笑顔! あれは天使よ、あそこが天国だったの! あのまま昇天したかった……」
「落ち着いてアリス」
確かに私も初めてお兄様を見たときは天使だと思ったけれど。
昇天するのはまだ早いから。
私の命の恩人として、怪我の療養のために屋敷に招いたアリスはすっかり元気になった今もまだ屋敷にいる。
本人は『しがない子爵の娘が公爵家にこれ以上お世話になるなんて!』と家に帰ろうとしたのだが、お母様たちが引きとどめたのだ。
『リナの妹ということは私たちにとっても家族なのだから遠慮しなくていいのよ』と。
選考会が終わった解放感と、久しぶりに会えた嬉しさで、つい前世の感覚でアリスとキャッキャしていたら私たちのあまりの仲の良さに疑問を抱いた家族たちから追及を受けた。
この数ヶ月で出来た友人にしては親しすぎると。
そこでゲームのことは伏せて、前世で姉妹だったこと、そして選考会で偶然再会したのだと明かしたのだ。
この世界でも『生まれ変わり』という概念はある。
ましてロンベルク家は特に信仰心の篤い家。
二人が再会できたのは神様の思し召しだと、私たちの話を受け入れ喜んでくれた。
そして何ならずっとこの家に居てもいいという家族と、さすがにそれはと躊躇うアリスとの攻防の末、来月に行われる私とエルネスト様の婚約発表式までアリスは家に滞在することとなったのだ。
「それにしても、三ヶ月も経つのにまだお兄様に慣れないの?」
アリスは毎晩のようにその日のお兄様を思い出して大騒ぎして悶えている。
「お兄様悲しんでいたわ、『アリスはお母様とは楽しそうに話をするのに私とは目もあまり合わせてくれない』って」
そして未だにお兄様の前では緊張して固くなっている。
目も合わせられないし、話しかけられると挙動不審になり挙句逃げてしまうのだ。
「あんな美形、慣れないってば!」
「そう? でもゲームとか漫画ではいつもお兄様みたいなキャラが好きだったじゃない」
アリスが好きな『青髪の中性的な美形キャラ』にお兄様はドンピシャだ。
しかも見た目だけでなく性格も良く、身分も完璧なのだ。そんなお兄様とせっかく知り合えたのだからもっと仲良くなればいいのに。
「あれはゲームだから! リアルでは無理! 推しは画面越しに拝むのが一番なの!」
「……そういうものなの?」
「お姉ちゃんは殿下に緊張しないの? 殿下もかなりの美形じゃん」
クッションを抱えてアリスはじと目で私を見た。
「――それは、最初はしたけれど。流石に慣れるわよ」
王宮に行った時は、お茶や食事の時間はエルネスト様と一緒に過ごしている。
最初の頃は緊張したり恥ずかしいと思ったこともあったが、最近は会話もスムーズにできていると思う。
「あー、お姉ちゃんって順応性高いもんね」
「それはアリスもでしょ」
「いやでもユリウス様って、憧れの芸能人みたいなものだもの」
「でも毎日会っていればさすがに慣れるものじゃないの?」
「尊すぎて無理いー」
アリスはボスッとクッションに顔を埋めた。