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39 最終日

それからの数日は穏やかに過ぎた。

この選考会で親しくなった者同士や、逆にあまり交流がなかった相手とお茶会を開いたり。

皆思い思いに過ごしていた。


そうして迎えた選考会最終日。

二日目同様、国王夫妻も参加しての夜会が開かれる。


今日のドレスはグラデーションになるように何色ものチュールが重ねられ、金糸で刺繍が施されている。

大粒のサファイアを中央にあしらったネックレスとイヤリングは公爵家に代々伝わるものだそうだ。

化粧を少し濃いめにした鏡の中の私は、いつもよりも大人びて見えた。




マチューのエスコートで会場へと向かうと、扉の前に殿下が立っていた。


「ああ、リナ。今夜は一段と綺麗だ」

私を見て紫の瞳が細められる。

「ありがとうございます」

ドレスの裾を摘んで礼をとる。

顔を上げた私の目の前に殿下の手が差し出された。

「エスコートさせて欲しい」


(え……ゲームでこんな展開あった?)

ゲームでは殿下は最初の夜会同様、陛下たちと登場して、それから選んだ令嬢の元に行って……。

ああ、でもここはもう、ゲームの世界ではないんだ。


「はい、お願いいたします」

差し出された手に自分の手を重ねると、殿下はその手を自分へと引き寄せて甲に口づけを落とした。




殿下と並び立つ。

扉が開かれると歓声が聞こえてきた。


見やると他の候補者たちや護衛騎士たちがこちらに向かって拍手をしている。

「え、あの……」

「もう私が君を選ぶことは皆知っているからね。あとは父上たちに報告するだけだ」

思わず殿下を見上げると、殿下は笑みを浮かべて答えた。


皆が見守る中、ホール内を横切り私たちは既に到着していた国王陛下と王妃様の前に立った。

殿下が陛下に向かい膝を折ったので、私も合わせて礼をとる。


「陛下。私はリナ・ロンベルク嬢を妃とすることに決めました」

殿下はそう告げた。


「この先、生涯共に生きる覚悟はあるのか」

「はい」

「リナ嬢」

陛下の視線が私へと向いた。

「そなたも覚悟はあるか」


「――はい」

私は深く頭を下げた。

「未熟者ですが、精一杯努めさせていただきます」


「そうか。妃というのは中々大変な役目だ。困ったら王妃を頼ると良い」

頭を上げると、王妃様が優しい眼差しで私を見ていた。

「よろしくお願いいたします」

「ええ。可愛い娘ができて嬉しいわ」

殿下によく似た笑顔で王妃様はそう答えた。


「今回の選考会で無事王太子妃を得ることができ、安堵している」

陛下はホール内を見渡した。

「参加した者たちは皆、ひと月前と比べて成長したと報告にある。今回の経験は皆にとって有意義であっただろう。これからも社交界の一員として成長していくことを願っている」

陛下の言葉に歓声と拍手が湧き上がった。



その後は最後の夜ということで、皆と歓談しながら過ごした。

アリスも無事参加できたが、まだ痛みは残っているので椅子に座ったままだった。


王都からアリスの領地までは遠く、傷の残る身体で長距離の移動は厳しいだろうと、アリスはしばらく我が家に滞在することになった。

アリスは恐縮していたが、先日お兄様が来た際、アリスを見舞ったときに、私の命の恩人だからお礼を兼ねてなのだと伝えた。


ちなみにお兄様が帰ったあと、アリスは『ヤバい、リアルユリウス様イケメンすぎてヤバイ』とうわ言のように呟いていた。

――そういえばお兄様は亜里朱の好みドストライクで、ゲームでも少しだけ出てきたその姿を見て大騒ぎしていたのを思い出した。





「リナ、少し夜風にあたろうか」

ひとしきり皆と話をし終えた所で殿下に誘われて、ベランダへと出た。

見上げた夜空には丸い大きな月がかかっている。


「無事とは言い難いが選考会を終えられて良かった」

「はい。あっという間の一ヶ月でした」

始まる前は不安だらけだったけれど、終わってみれば、ゲームのような冤罪になることもなく、亜里朱とも再会できたし友人もできた。

陛下の言われたように有意義な一ヶ月だった。


「私はこの二年間、待ち遠しかった」

夜空を見上げていた殿下が私へと向いた。

「一目見ただけの君が本当にロンベルク家の娘なのか、なぜ公の場に姿を現さないのか、婚約者がいるのではないか……ひと月前の夜会で君に会うまで、ずっと不安だった」

「殿下……」

「本当に良かった」

そう言って、殿下は私を抱きしめた。


「リナ。私の妃となることを承知してくれてありがとう」

「……はい。殿下も……私を選んで下さってありがとうございます」

「ああ――リナ。もうその『殿下』というのはやめないか」

「え?」

「私たちは婚約者になるのだ。エルネストと、名前で呼んで欲しい」


(婚約者……)

その言葉の響きに顔が熱くなる。

「リナ」

そんな私の顔を覗き込む殿下の眼差しはどこか期待に満ちているようだった。


「……エルネスト様」

その名前を呼ぶと紫の瞳が嬉しそうに細められ、その表情にドキリとしてしまう。

胸の中に急速に何かが広がって満たされていく。


(ああ……私、この人が好きだ)

改めてそう意識した。

私に向けられるその笑顔は――ゲームでヒロインに向けられた笑顔よりもずっと柔らかくて、優しくて。

幸せな気持ちになる。


この世界に生まれて良かった。

ゲームとは異なったこの世界で、私は彼とこれから生きていくんだ。


そう改めて決意しながら、私は再び抱きしめてくれたエルネスト様の胸に身体を預けた。





本編 おわり


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