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24 折り返し

アデール様の謝罪から数日後。

二回目の試験が行われた。


アデール様はアリス達にも謝罪して謹慎を解かれた。

それ以降、彼女たちを見下す言動はなくなったそうだ。


試験までの間、講義も二回あったのだが私は参加させてもらえなかった。

怪我もしたし、数日ベッドの住人だったのだから長時間椅子に座るのは苦痛だろうというのが理由だが、……確かに容赦のない力だったとはいえ扇子で一回打たれただけで、もう痛みはない。

それに多少の辛さは慣れているから講義を受けるくらい平気だと言ったらソフィア様に泣かれてしまった。


どうやら私の治療をしてくれた医師から、私の背中に未だ虐待の痕が残っていることを聞いてしまったらしく、すっかり同情されているようだった。

人の過去の傷を勝手に教えてしまう医師というのはどうかと思ったけれど……個人情報保護なんて概念はここにはないのだろう。

試験も受けなくていい、無理しなくていいと言われたけれど、流石にもう元気なのだ。


勉強不足で試験は不安だったけれど、サロメ様が講義のまとめを毎回持ってきてくれたり苦手な政治学を中心に勉強したので、前回よりも良い成績を取ることができた。

他の人たちも概ね前回より成績は良かったそうだ。



選考会の期間は残り半分。

試験が終わって一息ついた私の心配は一つ。

――あの毒事件が本当に起こるかどうか。


事件のあらましはこうだ。

虐めていた姉リナが、公爵家の養女となり贅沢な生活を送っていることを、妹コゼットはずっと恨んでいた。

そして王太子も出席するお茶会の席でこっそりある令嬢のお茶に毒を入れ、それをリナが入れるのを見たと嘘をついたのだ。

コゼットはそれまで存在感が薄く静かな令嬢として存在しており、かたやリナは我儘、暴言放題。

それまでの行いでリナの犯行であると皆が信じ、投獄されるのだ。

牢にいたリナの前に現れたコゼットは、リナの過去を皆にバラしたとやはり嘘をつき、惨めな過去を晒されて混乱したリナに残りの毒を差し出し――リナはそれを飲んでしまうのだ。



ゲームと現実では色々と異なっている。

私は孤児院出身であることになっているし、コゼットも私が姉だと気づいていないはずだ。

私が我儘を言ったのも、家庭教師が欲しいということくらいだし……。

だから大丈夫、だと思いたい。


(ゲームと違うといえば、アリスもよね)

ゲームでは、他の令嬢とは異なる言動で殿下の目に留まり、好感度を上げていくのだ。

けれど現実のアリスが目立ったのは、ジャネットをアデール様から庇おうとしたことくらいだろうか。

何度か会話を交わしたけれど、お妃よりも王都のスイーツの方が興味があるようだったし。

(アリスが妃に選ばれなかったら……ソフィア様が?)

でもソフィア様は好きな人がいるから、妃にはなれないと言っていた。

じゃあ……。





「どなたがお妃に選ばれるんでしょうね」

部屋を訪れてくれたソフィア様にそう尋ねると、何とも言えない顔をされた。


「――リナ様って」

はあ、と深くソフィア様はため息をついた。

……私、何かおかしなことを言った?


「いいですか。お妃の最有力候補はリナ様です」

ぴっと私に向かって指を差しながらソフィア様は言った。


「え?」

私?!

「前に言いましたわよね、殿下はリナ様のことを気に入っておられると」

「え、ええ……」

「候補者の中で殿下が興味を持たれているのはリナ様だけですから。このままいけばリナ様が選ばれますわ」

私が……お妃に?


「でも私は……」

「試験の成績も申し分ないですし、あのアデール様を改心させましたわ。お妃としての素質は十分です」


私が……。

でも私は、途中で舞台から消える悪役なのに。

……そもそも、どうして。


「どうして……殿下は私に興味があるのでしょう」

「リナ様はとても可愛らしいですから」

可愛い、のだろうか。

自分では良く分からないけれど……でも。

「可愛い方や綺麗な方は他にも沢山いらっしゃいますよね」

ソフィア様もとても美人だ。


「殿下のお好みに合ったのでしょう」

「そうなのですか……」

「――ちなみに、リナ様は殿下のことをどうお思いになられているのですか」

「……そうですね、お綺麗な方だと思います」

初めて会った時は天使だと思った。

私の地味な紺色の瞳と黒髪に比べて、光を集めたような銀髪に紫色の瞳の殿下はとても綺麗だ。


「他には?」

「ええと……とても優秀な方だと聞いています」

「ときめいたりは?」

「……ダンスを踊った時はドキドキしました」

あんな綺麗な、しかも王太子殿下が目の前にいたり触れられれば緊張もするし、ドキドキするけれど。

――殿下のことはよく知らないのだ。


「そうですか……まず意識することからですわね」

ため息をつきながら、ソフィア様は小さくなにか呟いた。


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