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23 謝罪

「アデール様が訪問されたいそうですが。いかがなさいましょう」

マチューがそう告げたのは翌日のことだった。


「……ご用件は?」

「謝罪をしたいと。私とアデール様の護衛騎士が同席します」

「お嬢様。無理をなさらなくていいのですよ」

「そうですわ」

侍女たちが口々に言う。


「――いえ。お会いします」

少し考えて私はそう答えた。




午後、私は応接室でアデール様を出迎えた。

背中が痛くならないよう、侍女たちがいくつも柔らかなクッションを重ねてくれる。


現れたアデール様は顔色が悪かった。

少しやつれたようにも見える。

何故かその後ろからソフィア様も入ってきた。



「……リナ様。この度のこと、申し訳ありませんでした」

手を強く握りしめながらアデール様は言った。

その声も、肩も少し震えている。


「アデール様、無理に謝罪なさらなくてもいいのですよ」

その態度が嫌々そうに見えたのか、少し冷たい声で私の隣に座ったソフィア様が言った。

「……いえ、本当に……ごめんなさい」

いつもの威圧的な態度はなく、目を伏せたその様子は、本当に悪いと思っているように思える。


おそらく、アデール様は私が意識を無くすほど大ごとになるとは思わなかったのだろう。

――弱い者いじめをする人は弱者がどう思うのか、どうなるのか考えない……いや、思い至らないのだろう。



「アデール様」

俯いたままのアデール様を見つめて私は口を開いた。

「アデール様は、扇子で打たれたことはありますか」

「……いえ」

「私は何度もあります」


「え」

アデール様は顔を上げた。

「息ができなくなるんです。呼吸したくても痛みでできなくて、苦しくて。今回は一度だけでしたから……それでもまだ痛みはありますが。何度も打たれた日は熱も出て、夜も眠れないんです」

「そんな……」

元から悪かったアデール様の顔色が、ますます青ざめた。

「もっと辛いのが、顔を打たれた時です。口の中が切れて、痛みで何も食べられなくて。顔が腫れ上がって痣ができて、それを見て醜いと言われてまた打たれて」

「リナ様っ」

ソフィア様が抱きしめてきた。

「もうそれ以上は……」


――しまった。

つい昔を思い出して余計なことを話してしまった。

でも……もしもあのままゲームのようにアリスが顔を打たれていたら、今頃彼女は辛い思いをしていたかもしれない。

もしも顔に消えない痣が残ったら……その可能性を知っておいて欲しかった。

「申し訳ありません、お二人に聞かせていい話ではありませんでした」

けれど私と違い、大事に育てられてきたであろうお嬢様にはこんな話、刺激が強すぎるだろう。

部屋に控えている騎士の二人も顔が強張っている。


「……いいえ、私はいいのです。それよりもリナ様が」

私?

「ごめんなさい!」

アデール様が深く頭を下げた。

「私、そんな……息ができなくなるとか、そこまで考えていなくて……」



「アデール様。爵位が低くても、貴族でなくても、同じ人間です。打たれれば痛みを感じるし傷つきます。階級意識が悪いとはいいませんが、下位の人間にも心があることを忘れないでください」

力を持つ者と持たない者では生きている世界が違う。

だから忘れそうになるけれど……身体や心の作りには、身分の違いはないのだ。


「ごめんなさい……」

ポロポロと涙を流しながら、アデール様は何度も同じ言葉を繰り返した。

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