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22 兄の訪問

「リナ様、御面会です」

「面会?」

「リナ!」

マチューが通すより早く、人影が部屋に飛び込んできた。


「お兄様?!」

「リナ! ああ可哀想に……!」

ベッドに座る私をいつものように抱きしめようとして――はっとした顔でお兄様は動きを止めた。


「……背中はまだ痛むのか?」

抱きしめると背中の傷に触れてしまうことに気づいたのだろう、代わりに頭を撫でながら兄は尋ねた。

「安静にしていれば大丈夫です」

それはつまり、動くと痛いということなのだけれど。

嘘をついてもすぐバレてしまうので正直に答えると、お兄様は痛ましそうに眉をひそめた。


二日前、アデール様に扇子で背中を打たれたあと、私は意識を失ってしまった。

目覚めたのは翌日で、その間にアデール様の謹慎が決まったそうだ。

二日経っても動いたり深呼吸をするとまだ痛くて、あれがアリスの顔に当たらなくて良かったとつくづく思う。


「お兄様……ここには家族は来てはいけないことになっているはずですが」

「そんなことを言っている場合ではないだろう? リナが傷つけられたんだ」

お兄様は不快な表情を浮かべた。

「ラビヨン侯爵家には抗議を入れた。聞けばお前が孤児院出身だということについて誹謗していたそうだな」

「……それに関しては、覚悟はしていましたから」

血筋を気にする人たちにとって、親の分からない私は不要な存在なのだろう。


「全く。怪我を負わされたからリナを家に連れて帰ろうとしたらそれは出来ない、治療ならここで行うと拒絶してきた」

お兄様はため息をついた。

「こんな危険な場所にリナを置いておけるわけがないのに」


「――リナ様の怪我に関しては私の責任です」

部屋の隅に控えていたマチューが深く頭を下げた。

「誠に申し訳ございません」

「なに、社交の場での、しかも令嬢同士の揉め事に騎士が出張るのは難しいだろう。責任は暴力を振るうような者をお妃候補に選んだ者にある」

身振りでマチューに頭を上げるよう指示しながらお兄様は言った。

――それはつまり王家に責任があると言っているようなものなのだろう。

お兄様はかなり怒っているようだった。


「リナ、家に帰ろう」

私へと向くとお兄様は手を握りしめた。

「……でもそれは出来ないと」

「リナを危険な目に遭わせるような者の言うことなど、聞く必要はない」

そう言って、お兄様は私の耳元に口を寄せた。

「それにここにはリナの元妹もいるのだろう」

その言葉にドクン、と心臓が震えて……背中が痛みを覚える。



確かにこの選考会を降りれば、ゲームのように冤罪を受けることはないだろう。

……けれど。


「お兄様……ここには、お友達になれそうな方が何人かいるのです」

私はお兄様の手を握り返した。

「私、お友達が欲しいのです。もう少しいてはダメですか?」


ソフィア様とはかなり親しくなれたと思う。

アリスも友人たちと見舞いに来てくれて、今度皆でお茶会をしようと約束した。

サロメ様も、昨日の歴史学の講義内容をまとめたものを持ってきてくれた。

彼女たちともっと交流を深めたい。

そして出来れば……友人と呼べる仲になりたい。


お兄様を見つめると、しばらくの沈黙の後長いため息をつかれた。

「――次に何かあったらすぐ連れ帰るからな」

「はい!」

嬉しくてぎゅっとお兄様の手を強く握りしめると、お兄様もようやく笑顔を見せてくれた。

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