20 衝撃
何が起きたか分からなかった。
ゲームと同じ展開になると思った。
アデールから友人を守ろうとして、逆上したアデールに叩かれる。
痛そうだけれど、ジャネットを守るためには仕方ない。
そう覚悟していたアリスの目の前に黒い影が落ちた。
すぐ目の前の可愛らしい顔が――激しい音の直後、苦痛に歪む。
周囲から悲鳴が湧き上がると、力が抜けた小さな身体が腕の中に落ちてきた。
自分がリナに庇われたのだと理解した瞬間、アリスは頭の中が真っ白になった。
(なん……で)
また。
どうして。
一度も忘れたことのない、悪夢のようなあの時のことが強く頭によぎる。
(なんで……また庇うの)
いつも彼女はアリスを守ってくれた。
近所の大きな犬から、乱暴な同級生の男子から。
そしてあの時――暴走するトラックから。
「おね……ちゃん」
震える腕でリナを抱きしめようとした、その時。
「リナ嬢!」
生垣の向こうから叫び声が響いた。
「殿下!?」
突然現れたエルネストに令嬢たちは騒然となった。
エルネストはアリス達の元に駆け寄ると、意識のないリナの身体を抱き上げた。
「医師を呼べ」
護衛に命じると、茫然と立ち尽くすアデールを振り返る。
「多少の諍いは放置する心積りだったが、暴力は見逃せない。アデール嬢、君は部屋で謹慎したまえ」
エルネストの言葉にアデールは目を見開いた。
「反省できなければ妃候補からは外す。アデール嬢を部屋へ連れて行け」
数人の騎士がアデールの腕を取ると彼女を連れて行った。
「マチュー、リナ嬢を部屋へ連れて行く」
「は」
リナの護衛騎士に声をかけるとエルネストは令嬢たちを見渡した。
「――君たちも、この場がどういうものか忘れず行動するように」
エルネスト達が去ってもアリスはその場から動けなかった。
「アリス……」
心配そうにジャネットが声をかける。
「何で……どうして庇うの」
アリスは声を震わせた。
ソフィアは青ざめた顔のアリスに近づいた。
「今度は……私が守らないといけないのに」
声をかけようとすると、独り言のような呟きが聞こえた。
(今度?)
内心首を傾げて、ソフィアはそっとアリスの肩に触れた。
「アリス様、大丈夫ですか。顔色が悪いですわ」
「……ソフィア様」
泣きそうな顔がソフィアを見た。
「リナ様は……」
「大丈夫ですから、部屋に戻って休みましょう」
傍のジャネットに目配せすると、ジャネットはアリスの腕を取りソフィアに頭を下げた。
アリス達が立ち去るのを見届けて、ソフィアもまた庭園から出て行った。