19 庇護
「何事?!」
アリスと顔を見合わせ、声のした方へ向かった。
数人の令嬢と、彼女たちが取り囲む先に蹲る一人の令嬢。
(あれ、この光景どこかで……)
「ジャネット!」
アリスが駆け出した。
蹲っていたのは子爵令嬢のジャネット様だった。
そしてその前に険しい表情で立つ、アデール様。
「ジャネット! どうしたの、大丈夫?!」
アリスはジャネットの身体を支えるようにその肩を掴んだ。
「またアデール様が噛みついたようですわ」
いつのまにか私の隣に立ったソフィア様が小声でそう言った。
「……何故ですか?」
「何でも自分と同じ髪飾りをしているのが気に入らないとか」
「え……そんな理由で?」
(そうだ、これ、ゲームと同じだわ)
私は思い出した。
ジャネット様の家は爵位は低いけれど国一番の商会を持っており、裕福なのだ。
その髪飾りも確か商会で扱う商品で、だからジャネット様が身につけるのは当然なのだけれど。
「とにかくアデール様は階級意識が強くて、お茶会などでも下位のご令嬢相手に時々問題を起こしますの」
頬に手を当ててソフィア様はため息をついた。
「対立するより友好的に接した方が何かと良いと思うのですが」
「……ちなみにアデール様のご両親はどうなのですか」
「ラビヨン侯爵も同じですわね。夫人は穏やかな方なのですが……」
「そうですか。親の影響ですと……変えるのは難しそうですね」
下の爵位を差別することは、アデール様にとっては『常識』なのだろう。
確かに、侯爵と子爵では立場に大きな差がある。
――でもだからといって、低い爵位の者を攻撃するのはアデール様のためにはならないのに。
「子爵の分際で!」
はっとして見るとアデール様が扇子を振り上げていた。
そうだ、ゲームでは友人を庇い抗議したヒロインの顔を扇子で叩くのだ。
その勇気ある行動を見た殿下が心動かされるのだけれど。
(扇子で顔を叩くなんてありえない)
昔よく、義母に叩かれた。
何年も痕が残るほど強い痛みがある扇子で顔を叩かれるなんて……。
ダメだ、そんなこと。
無意識に身体が動いていた。
背中から身体中を駆け巡る激しい痛みと、悲鳴。
すぐ目の前の大きく見開かれた、その顔は。
前世で死ぬ直前に見た妹の顔と同じだった。