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12 試験

「本日の予定ですが、午前は全員図書館へ集まっていただきます」

翌日の朝食後、現れた護衛騎士のマチューがそう告げた。

「午後は自由時間、夜は国王陛下夫妻及び王太子殿下を交えての夜会となります」

「……分かりましたわ」

夜会と聞いて、控えていた侍女たちの目が光ったのを見てしまった。


私は社交界デビューをしておらず、当然夜会にも出たことがない。

それが私付きの侍女たちには不満らしいのだ、『お嬢様を着飾りたいのに』と。

なので今回の選考会で、夜会の機会があるはずと彼女たちは色々と持ち込んでいるらしい。

到着した翌日にさっそくその機会を得て……さぞ喜んでいるのだろう。

夜の練習のつもりなのか、いつもより丹念に髪を結われて図書館へと送り出された。


図書館へ着くと、既に私以外の全員が到着していた。

遅刻かと一瞬あせったが、こういう時一番身分が高い者が最後に到着するものだと思い出す。

――マナーやしきたりについて、知識では知っていても実践は未経験なのだ、慣れるまで時間がかかるだろう。


席に着くとすぐに昨日の文官が現れた。

その後から現れた別の文官が数枚の紙とペンを私たちの前に並べていく。

「これから試験を始めます。制限時間は一時間。どうぞ始めてください」

唐突な宣言に候補者たちがざわついた。


(私はゲームで知ってたからいいけれど、何の説明もなしというのは厳しいわよね)


伏せられていた紙を表に返しペンを取ると、私は試験問題を読み始めた。


ゲームでは一応プレイヤーも問題を解くことになっている。

といっても五問ほどで、内容も貴族の爵位についてといったゲームをプレイする上で知っておいた方がいい知識や、季節の花についてなど、雑学的なものからランダムで出されるのだ。


実際の試験問題は、この国の歴史や貴族としてのマナー、政治や外交のことなど多岐に渡っていた。

難易度も、基本的なものから考えても分からないような難しいものまでさまざまある。

「え、なにこんなの知らないわ」

どこかで誰かの声が聞こえた。

皆動揺しながら問題を解いているのだろう。


難しい問題は飛ばして分かるものから解いていく。

時間内に何とか最後まで解き終わり、見返すこともできた。

この辺は前世での経験が生きていると思う。


「試験の結果は夜会前に各部屋に届けます」

解答を回収し終えて文官が言った。

「この試験で点数が低くとも問題はありません。明日からこの結果を元に各自学んでいただき、二週間後の試験で今日以上の成績を出してください」

再び図書館内がざわめきに包まれた。

そう、この試験は各自の学習意欲と成長力を見るためのものなのだ。

この二週間でどれだけ知識を増やすことができるのか、それが試される。



「リナ様、試験はいかがでしたか」

ソフィア様が声をかけてきた。

「一応全て解きましたが……政治の問題は自信がありません」

そう答えると周囲がざわついた。


(え、何?)

「まあ、全てですか」

ソフィア様は驚きの表情を見せた。

「え、ええ……。全てと言っても解答を埋めたという意味で合っているかは分かりませんわ」

「それでも凄いですわ。私、いくつか空白のままでしたの」

え、ソフィア様が?

見ると、他の令嬢たちが信じられないものを見るような顔で私を見ていた。

――あれ、何かおかしかったの?


「リナ様は勉強熱心なのですね」

「そう……でしょうか。本を読むのが好きなだけです」

ソフィア様の言葉に少し戸惑いながら答える。

生家にいた頃、私の唯一のやすらぎは本を読むことだった。

本は唯一知識を得る道具だった。

読書は養子に引き取られてからも続き、時間さえあれば屋敷の図書室で過ごしていた。

それに公爵家は綺麗な本や外国の本など、生家とは比べ物にならないほど蔵書量も質も良いのだ。読んでみたい本は沢山ある。

そんな感じで読書が好きなだけで……勉強熱心という訳ではないと思う。


「社交もせず家で本ばかり読んでいれば試験問題は解けますわね」

トゲを感じる声の主へ視線を送ると、アデール様がこちらを見ていた。

「アデール様。そのような言い方は……」

「いえ、アデール様の言う通りですわ」

抗議してくれようとしたソフィア様を制する。

「私、知識だけで経験が全くないのです。それらはこれからここで学ばせて頂こうと思っておりますが、未熟者ゆえご不快な気分にさせてしまうこともあるでしょう。どうかお許しください」

そう言って頭を下げるとざわつく気配を感じた。

――何かまずかったかしら。



「……確かに知識だけですわね」

頭を上げると、怒りだろうか、アデール様は顔を赤くしていた。

「元孤児院育ちとはいえ、爵位が下の者にそう容易く頭を下げるものではありませんわ」

そう言い捨てると、アデール様は図書室から出て行った。


(そうか……貴族にとって爵位の差というのはとても大きいのだっけ)

理屈では分かっていても、これまで家族としか接してこなかった、まして前世は庶民の私には感覚がよく分からない。

けれど。

「爵位が上だから謝るなというのは……おかしな気がします」

「――リナ様のその感性は、私は好ましいと思いますわ」

思わず声に出して呟くと、ソフィア様が目を細めた。

「アデール様は特に階級意識が強いようですから。あの方の言うことは気にしすぎないのがよろしいですわ」

「……ありがとうございます」

私を擁護してくれるソフィア様はとても優しい。


どうして殿下はソフィア様と婚約しなかったのだろう。

疑問を抱きながら、私も部屋へと戻っていった。

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