封じ込めていた記憶
脱走の意図がはっきりしないまま、
学園の能力テストの日がやってきた。
私は三月生まれだから最後らへんに受けるんだけど…
前に見覚えのある人がいるんだよなぁ…
「ヘプシッ」
…わざとらしいな
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
ヨハン、声かけなくていいて…
「あぁ、大丈夫です…少し、寒くて…」
…確かに少し肌寒いけど…
「それは大変ですね、私の上着を」
…なんかちょっと嫌だな
多分男ひっかけるためのやつやし。
「…はぁ、ヨハン」
「なんでしょうお嬢様」
「私、甘いものが食べたいわ」
「へ?」
「早く、買ってきて!!」
「…かしこ、まいりました」
首をひねりながらヨハンが部屋を出て行った。
一応子息令嬢が集まってるわけやからここ魔封じの結界貼られてるから魔法使えないしね。
魔力強くてこの程度の結果ならヨハンでも敗れるとはいえ、
流石に破ったら大問題になってまうから部屋から出て転移魔法を使ったんだろう。
甘い物を作る時間もいるし、
十分は時間を稼げただろう。
女たらしのヨハンなんか試験受けられなかったらいいんだ。
「ねぇ」
「あ、はい、なんでしょう」
…やっぱヒロインだ
なんでここにいるんだろう
誕生日が後半組が集まってるわけだから、
もしかしてヒロインちゃん一年早く生まれた?
いやでも流石にそうだとしても貧民と貴族は分けてるはず…
みんな学校側の指定に則ってワンピースを着てるから貧富の差がはっきりわかる。
特に三月とかになってくると、
高位の貴族は四月の誕生日が美徳とされてるから1ヶ月早まっちゃった子とか、
そんなの関係なしにラブラブな両親を持っている子ぐらいしかいないから経済的にも湯ふくな子が多いため、
ちょっと目が痛い。
でもドレスとかよりはマシだからこの校則もいっかなって思った。
私はちょっと肌が弱いから絹糸多めの金にものを言わせて最高品質のチェックジャンバースカートを作ってもらった。
ガーリーレトロ風にわざわざ注文つけてしてもらって、すっごい好きなデザインだから2、3種類同じ方で色違いを作ってもらったぐらい。
で、ここにはヒロインちゃんみたいに一色の薄っぺらいワンピースを着ている人はいない。
多分貧乏貴族でもこの日はいいワンピースを仕立ててくると思うけどなぁ。
そんな薄っぺらい生地なのにノースリーブを着てくるから寒くなるんだよ。
私でさえ長袖着てんのに…
…?
にら…まれてる?
「あたし、従者だからって奴隷みたいに扱うことはおかしいと思うの、ヨハンさんがかわいそう」
「あなたがヨハンの名前を呼ばないで!!」
…思い出した。
私の心が、ガラス並みに脆いことを。
…思い出した。
私が他人に自分のテリトリーに入ることにひどく拒絶反応を起こしてしまうことを。
…思い出した。
脱出したかった意図を。
このヒロインの性格は、私のトラウマに似てる。
「…お嬢…さま?」
…思い出した。
「…あら、ヨハン、帰っていたのね?私、甘いものが食べたいの。早くしてくれないかしら」
「かしこまいりました。」
…私は、人を信じることができないとこを。