第九幕「欲情の渦」
暗き夜に降り注ぐ微量の光をその一身に集め打ち放つ、燃え盛る紅蓮の赤き炎のような体が、そのものの生命力を表しているかのように思える。激しくその存在を自己主張する姿は、獣に我を食えと訴えかけてきとているようにしか見えない。もはや飢えた獣の世界は、己とその赤い灯火を包含するのみになっていた。愛すべき者も、彼を苦悶させていた後肢の痛みも、彼の心中にはない。野獣は何を省みる事もなく、獲物との空間を削り取っていく。そうそれはまるで、煮えたぎる欲情の証で満たされた彼の口内という竃の中で、彼の目の前にある空間が蒸発し白い吐息となって吐き出されている、そんな印象であった。
そして彼が獲物との間にあったはずの空間を全て飲み尽くし、いまだかつて知り得たはずのない絶望、驚愕に微動をも封ぜられ風前の灯となったその生き物を、彼が愛おしげに覗き込みそして、ついには飲み込みいざ噛み砕かんとしたその利那、彼は、自ら犯した、罪の重さに、頭を鋼鉄の塊で思い切り殴打されたような気がした。
「ぐりい……どうして……」




