第八幕「傷と絆と」
しばしの間、微睡んでいたか、気絶していたようだ。あたりから聞こえてくる音は、ただ波が浜辺に打ち寄せてくる音ばかりだ。実に妙な静寂だ。周りにアイカがいれば、こうであるはずはないのだ。
起き上がってみて私は足の負傷のことを思い出した。酷い痛みだ。やはり、何も先ほどから変わりはないようだ。そして先ほどアイカが治療をしてくれていた所には、アイカの姿はなかった。全く、彼女には説教というものが効かないのだろうか。体罰までも意味を成さないとすれば次には一体どんな手があるだろう。だがとにかく、今はアイカを捜すよりほかない。私は、足の痛みの耐え難きに耐え、その場を離れることにした。
足の痛みに耐えつつも、しばらく歩き続けて来た。気づけば、あの忌々しい浜辺に来ていた。今日の憂き目は、全てはここから始まっているのだ。
こんな足の状態で活動するのももう限界だ。私は、その場に腰を下ろした。
乱れた、獣のような荒げた息で呼吸して肩を上下させながら、白みがかった黒い天を仰ぐ。何故私がこんな目に遭わねばならないのか。本当に今日は災難続きだ。これで、もしもアイカが見つからないなんてことがあれば……いや、そんなことを考えてどうするというのだ。そんなはずはない。私の悪い傾向として、状況に不安を覚えるとすぐに気落ちしてしまうところがある。そんなことでは、状況は悪化の一途を辿るばかりだ。落ち込んでいる暇があれば、一刻も早くアイカを捜した方が良い。アイカを捜さなければ、アイカに会えないのだから。当たり前のことだが、ともかくはその考えは、私の体を再び立ち上がらせる一助にはなったようだ。
が、しかし。立ち上がった途端、アイカにのみ向けられていた私の意識は、目の前に仔むある一つの愛くるしい生き物へと集中していった。神よ……。悲しみに削む私の心が、悦びで満ち満ちていくのがわかった。




