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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第一章「枯葉の愛」

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第七幕「黒い嵐」

「いたっ! も、もう少し優しくやってよ……」

「ダメです! グリィさんのじょうちょは、今タイヘンふあんていなんです。じっとしてなさい。また、おいしいおくすりをぬってあげますから……はい紳士さんおくすり」

 何故虫が薬を運んでいるのか、そんな不可解なことに回答はできないが、ただ今わかっているのは、今私は、アイカに傷の手当をしてもらっている、ということだ。いや、塗られている、といった方が正解か。というのも、アイカは私が変人だから薬をつけさせろと言って聞かなかったのだ。

「はいありがと……うーん、あまくておいしー。 じゃあグリィさん、今たーっぷり、おくすりをぬってあげますからねー」

 アイカの指先には、異常な量の薬が塗りたくられている。かれを一度に塗られた時の痛みを考えただけでも、背筋が寒くなってくる。

「もう少し減らしてくれた方が、嬉しいんだけどなあ……」

「もうへんじんはうるさいったら! はい紳士さんかみついて」

「いたたたっ!」

 もう、全ての気力が一気に萎えてしまった感じだ。こうして時折、変人はアイカのお仕置きを受けて、黙らせられてしまう。その上、この時噛まれるのは傷口なのだ。ここを注意しようとしても発声は何もかも、変人がまた発狂していると取られてしまう。ここでは、傷は一向に治らない。足が痛くて逃げることもできないので、とにかく、何一つ対抗の術はない。以前から考えていたのだが、私はアイカにこうして治療をしてもらっている時が、生涯で一番危険な瞬間であるような気がする。ひょっとして命を落とすことがあるとすればそれは、今のようにアイカのおもちゃとしてなのかもしれない。悪魔のような天使、いや天使のような悪魔か。

「はーい、おくすりですよー」

 夜の闇に、私の悲鳴が轟く。薬がまた酷く傷口に染みるのだ。量のこともあるが、傷の深さにもその一因がある。気絶していた合間にそれこそ無数の虫が噛んでつくった傷らしく、その損傷は相当に激しい。情けないことに歩けなくなってしまったので、私の足の治療も兼ねて近くの岩場で夜を越すことにした。そこでアイカの治療を受けているという訳なのだが、アイカは妙に楽しげなのが始末が悪い。最初は確かに哀れむように労わるようにやってくれていたのだが、段々と面白さが先行してしまったのだろう。

「あ、もうおくすりなくなっちゃった。じゃあ、治療はおしまいです。静かにしていて下さいね」

 やっと、嵐は過ぎ去ったらしい。気になって足の方を見る。

「えっ?」

 この少量は、一体どうゆうことなのだろう。足には、何がついているのか皆目見当がつかない。というよりも、以前と何も変わっていない気がする。つまり薬は、この子のおなかの中に、流れ込んでいってしまったということか。その性格が、その薬で治療されてくれることを切に願う。今日はもう疲れてしまった。私は、いつしか眠りの泥沼に飲み込まれていった。

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