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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第一章「枯葉の愛」

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第六幕「奇人を哀れむ歌」

「……ィ、グ……」

 ……?

「グリ……、グ……ィ」

 何だ? 誰かが私を呼んでいる。

「グリィ、グリィ! 私たちは仲間だよ、家族だよ、忘れちゃったの?」

 誰……だ……アイカ?

 はっ。私はふとした心の緩みからアイカを妬み、勝手に訣別してしまったのだ。こんなことではいけない。ここからも、この程度のことはたくさんあるだろうというのに。情けない。こんなことで大丈夫なのだろうか。

 そう、私たちは家族だ。シンガルの民だ。二人で、いつでもどこでも、どんなことがあっても、助け台って生きよう、笑いながら歌いながら生きていこうと心に決めたのだ。それが我々、シンガルの民の基本理念なのだ。シンガルというのは、私たち、つまり私とアイカだけの言葉だ。スペリングはSINGAL。その心は、「事あるごとに、全てを歌う」つまり、シンガルの民の基本理念を反映させたものだ。 SING 部分にSING(歌う) THING(事)、AL 部分にALL(全て)の意味を込めている。そしてシンガルの民とは、私とアイカだけの、小さく慎ましやかな民族。そして明るく楽しい民族だ。

 私が二人だけでいることの孤独から霧を晴らそうとしているのかといえば、そうではない。一緒にいる人数こそ寡少だが、この世界だからこそ築ける真の絆というものがあるはずだ。それ以前に、寂しさに共にいられる人数は関係ない。結局、状況がどうあれ「寂しき者」とは、他を出抜いてでも生きていこう、おいしい目に会おうという自己中心者だろう。

 だからといってこの状況に満足はしていない。前にも言ったように、いつの日か、この霧を晴らしてみせる。そう、私がこの霧を……。

 そう思うと同時に、私の周りに突然に光景が戻った。私は釣り竿を投げ込んだ時の位置のまま、海に立っている。太陽が沈んで青みがかった霧と海が、私の眼前に広がっている。もう夜になったのだ。海が鮮やかな銀色で波打っている。つまり、失神していたということか? もしそうであれば、相当に長い間、気を失っていたことになる。

「かわいそうなグリィ……」

 声のした方を見てみると、私の服を掴んだアイカがいた。奇人を哀れむような瞳が痛い……。

「こんなにかみつかれてしまって……」

 とアイカは言って、今度は私の足を見る。釣られて私もその方を見る。

「え?」

 そこには、十数匹の虫に噛みつかれた、私の足があった。

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