第七幕「羽根」
飛んで行くのかい? 誰も止めはしないさ。それはそうなのさ。でもさ、君は本当に、飛んで行くのかい?
そんな汚れて傷ついた羽根で、どこまで飛んでいけると思うんだい? そういうことを考えさえしなければ、どこまででも飛んでいけると思っているのかい? フラフラ、そんな風に不安定に飛び続けていれば、いつどこでその羽根にひびが入るとも知れないのに? ガタガタ震えるその顎が、寒さによるものでは決してないことを知っているのに?
危なくたって、恐くたって、飛んで行けるさ。それは君の自由だよ。自分の好きにしていればいいさ。でも、君は知ってしまったよね。本当に自由になんてなれないんだってことを。自由だと思っているものは、実はただ言葉だけの大きさだということを。自由。どこまで行っても、君は結局自分の艦から出られないんだと、わかってしまったんだよね。
君がそれが自己欺購だと思ってる。思ってしまったから、飛んで行かなくちゃいけないんだと思ってる。どうしてなのかも知らないのに、いつも襲ってくるその痛みの原因が実に単純明快であるのも知らないで、君は飛んで行こうと思ってる。行こう、と思ってるんだね。危ないよ、危険だよそれは。今なら、まだ間に合うんじゃないかな。未来の君が、まだいてもいい場所があるんじゃないかな。そんながむしゃらな低空飛行を続けないで、もっと高いとこを飛びなよ。君は本当は、君が今思っているよりも自由なのに。君は空気の色を選ぶ権利すらあるのに。ああ、もう、だめかな。行っちゃったね、バイバイ。君の耳障りな羽音だけはどうか消しておいてくれよ。




