最後の物語「雪降る野原に、愛を繋いで」/第四幕「刃物」
少年と、刃物。
少年は、起き上がった時、その手に持っていた金属を少しずつ少しずつ、研ぎ澄ましていきました。なぜ、その金属を握っていたのか、なぜ、削っては削っては涙がはらはらと零れ落ちるのか、少年は全然わからないまま、金属を削り続けました。
少年は、空を見上げてみます。しかしそこには、あるべき何らかの色はなく、その代わり、まっ白な空気だけが、少年を囲んでいました。見ると目が沁みました。だから少年はひたすらうつむいて、一心に金属を削り続けました。
夜が来ることがありました。本当はいつも来るものだったのですが、少年は、それを知りませんでした。いつであろうと、何処であろうと、少年は金属を研ぎ続けました。
一度、少年は金属で手を切りました。舌で、その傷をなめました。
その金属で、少年は生きていくことを学びました。その金属で、少年は生きていく力を得ました。そしてその金属が、少年に大切なことを教えました。
もう少年に金属はいりません。なぜなら、それは刃物だから。もう、痛いということは、十分すぎるほど学んできました。もう、あんな思いはしなくても、もう平気なんです。大きくなった少年に、もう金属はいりません。なぜなら、それが刃物だから。




