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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
最終章「雪降る野原に、愛を繋いで」

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35/53

序編「がんじがらめの小鳥、と、もの悲しげな庭師」/第四幕「君の言葉を聞かせて」

 静かな夜だ。音もなく、昼間の光景は全て闇の中へとその姿を潜めている。

 ひそやかに冷ややかに瞬く星々は、僕の視界に入っていながらにしてまるきり風景の中に開いた場違いな穴のようだ。夜という固く凍てついた無限の宝石のそこかしこに、かろうじて開けられた寂しがり屋の臆病な光たちの抜け道。夜それ自体の輝きと呼ぶにはあまりに不釣合いな、たくさんの光の粒の一瞬の声を、僕は聞くのだ。

 ぼくは、ここに、いるよ。

 きみの、こえを、きかせてよ……。

 深く深く深呼吸をする。星を見上げたままのけぞらせた頭に、長い時を経てきた大木の、ごつごつした岩肌のような若くない幹が触れる。ふうっとため息をつく。この木と経てきた年月が、この木の経てきたそれと比べてどんなに短かろうと、僕はこの木が好きだ。たぶんそれは事実であり、僕の感情ではない。僕は、どうしてもこの木が好きであるようにできているのだと思う。僕が、僕を持たずに生きてきた頃から、僕のそばにあり、僕が見上げてきたこの木が、そう、僕にとっての木であることの……。

 彼の言葉を、僕は知った気でいる。星々の泣き声に、耳を傾けた気でいる。でも僕は、自分の言葉を知らない。僕には、自分の声に耳を傾ける、その勇気はない。僕が本当に何を望むのか、それも知らない気がするし、思い描くほどの力も、ひょっとすると持っていなのかもしれない。

 でもひとつだけ、僕には確かなことがあるんだ。あの人の微笑が、僕にとって、揺るぎようのなく、白い砂のように僕を鮮やかに彩っているのを知っているし、また、僕に手を握るその力がなくなっても、落ちずにずっと僕の手の中にいてくれる物だということも、僕にはわかっている。それが、僕に生きる衝動を与えているのだと思うし、それが、僕を前へ、前へと紡いでいく糧なのだと思う。

 そうして僕は、自分の言葉を持って、自分の声で言えるようになった。

 ぼくは、ここに、いるよ。

 きみの、ことばを、きかせてよ……。

 それが、いまを生きていくための僕の力の全てだ。

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