第二幕「力弱き者」
僕は少年になった。それが証拠に僕は自然と語らうだけでなく、他人というものにも自覚的になった。
彼はずっと前から僕の世話をしていてくれた。名前は知らない。ただ、彼が自分を何とも呼ばないでくれと言っていたから、そうしていた。
ずっと以前から顔を合わせ続けてきたにもかかわらず、僕と彼とがまともな会話を交わすことはただの一度もなかった。僕が避けていたのもあったろうし、彼自身、特にそれを求めているようでもなかった。時折服の替えや食事を持ってきてくれたり、風呂を沸かしてくれたりする。それが、僕にとってある時期までの彼の全てだった。
いい加減しびれを切らしたとでも言うように、僕と彼とが共に過ごす時間が爆発的に増えた。いろんなことを聞いた。いろんな疑問をぶつけた。そして僕は、段々と、自分の置かれた立場を知るまでに至った。
彼が言うには、どうでも良いことだが僕は王子だった。僕はたいそう親である王に可愛がられているということで、寵児として半ば幽閉するようにこの庭での生活を強いられているとのことだった。気持ちの悪い愛の形にウンザリしながら、それでもこのお気に入りの庭をくれたには、形骸的に慕う気持ちを持っていた。なら何故会いに来ないのかと聞くと、遠くで見守るだけで十分だからそれで良いということで、それ以上を聞き出すことはできなかった。
文化を学ぶ。歴史を学ぶ。エリクエク・エスタル、「輝ける真実の光」という国の、レ・フという王のただ一人の愛し子として、ハルクトという星の小さな一点で、僕は、彼の口から流れ出る知識の一つ一つを、溶解液に満ちた飢えたスポンジのように、吸収し続けていった。言ってみれば僕は、それ以外に能のない、そのほかに取るべき行動のない、呼吸を続け、水を飲むだけの〈苗木〉同然だった。苗木は、一人で何処までも何処までも、寂しさに体を軋ませながら、天を目指さなければならないのだろうか。




