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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
最終章「雪降る野原に、愛を繋いで」

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30/53

序編「がんじがらめの小鳥、と、もの悲しげな庭師」/第一幕「あそびとぼくらの日々」

 ぼくは、木が好きだった。

 ぼくの周りには、小さな苗木がいくつも植えてあって、そこがほくのためだけの庭だという事実が、ぼくを幸せにした。そう、たとえ友だちを作ることができなくたって、たとえ外の景色を見て回ることができなくたって、ぼくは、この庭さえあってくれれば、ぼくがここで呼吸して、寝ころんで、草の匂いをかいで、あちこち走り回って、そして夜になって、草や木がぼくに話しかけてくれて、その中でぐっすりと眠れさえすれば、ぼくは満足だった。いっぱい、いろんな宝物があったから、ぼくはほかの子よりも、きっと、幸せだった。

 苗木だけじゃない。ぼくががんばって見上げても全然てっぺんの見えないくらいの大きな大きなやさしい木が、いつもぼくのそばにいてくれた。ぼくはその時、かれの言葉がわからなかったし、しかたなく名前をきけなかったけど、かれの近くに行くときまって、かれはざわざわ、とあいさつしたから、ほくもその音を口まねしてあいさつ代わりにしていた。

 かれに寄りかかって、おいしいくだものを食べて、ひる寝をすることもあったけど、一番に良くやったのは、何より木のぼりだった。何度もやったのもあったし、何度もころげ落ちたものだから、手はちまめだらけだった。でも、ぼくは大好きだったから何度でもやった。かれのあたたかい体に思いきりしがみつくのが楽しかった。ぼくは、そのぬくもりが大好きだった。

 てっぺんに行けば、緑色の葉がきれいにまぶしく輝いていた。てぢかな枝をいすにして、太陽の光を手でさえぎるようにして、景色を眺めた。どこまでも広い草原が、あたりいちめんに広がっていた。青い空も。でもその空は、少し "うそ" が混じっているということは、幼いながらも感じていた。だから、ぼくはあまり空を見上げるということはなかったように思う。

 ぼくがこどもだった頃は、香りのないさりげない風のように、静かな速さで流れていった。

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