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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第三章「祈りの聖夜に」

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終幕「巨大樹にささげる歌」

 孤独な男は、歌を歌っていた。それは思い出の歌であるらしく、男は、一言一言を懐かしむように、何かを愛おしげに想うような歌声を発している。その目には涙が浮かんで、音もなく、地面にしみを作っていく。顔は、涙でひどく汚れたようになってしまっているそして掌も、涙で屈折したようになっている。

 天まで昇って行くように、歌声は空へと駆け上がって行く。見えない何かに、躍りながら飛翔して行く。翼のない鳥が、仰ぐのは、決まって彼の故郷の空であるように、その彼の祈りの声もまた、仰ぐことのない、地を蹴り上げてゆっくり、ゆっくり、天の明るきを目指す。明るい空に、涙が溶けていくのかもしれない。男の瞳は、今は涙を止めた。仰ぎ見て、自らの声が声でないかのように、目を見開いて、天に近づいて行く歌声を眺めている。その間にも、絶え間なく、男の口からは静かに旋律が続いている。

 天が口を開けた! まるで歌声を受け入れるためであるかのように、その時、勢い良く空が割れた。ああ、何という輝かしさだろう! 太陽が太陽でなく太陽のスープになってしまったように、全天が黄金に輝いている。降り注いでいく。降り注いでいく。夜に微睡み静かだった木々も、突然に起こされて騒いでいるし、動物たちも、花々も、みんな驚きつつもその顔は安らぎと幸せに溶けてしまっているようだ。男の顔は、みるみるうちに希望で洗われていくようだ。

 男はあたりを見回した。愛しい人の髪の毛のように、優しく揺れる金色の草原が、木々があった。そして木に凭れるようにして、少女に特有のはにかみを浮かべて、一人の可愛らしい少女が男を見つめている。何か、言おうとしていたようだがそれより先に、男が駆け寄ってそしてもつれて転んだ。少女は、少し笑うと男を優しく起こしそして今度は男に凭れた。どんな瞬間よりも安らげる、落ち着けるのがその男の胸にいる時であるとでも言うように、幸せそうな微笑を浮かべて。男は、しばらくされるままでいたがその少しの沈黙の後、少女を思いきり抱き寄せた。何か、男がささやいている。少女は静かではあるがそれでも滑るような頬はしっかりと赤らめて、それを聞いている。二人の時間は、ただ静かに、静かに流れていった。


The End of Singalio Rou' Se lef Episode 3

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