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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第三章「祈りの聖夜に」

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第七幕「蒼き、蒼きものたちの刃」

 私は、ある事象を発見していた。ある時期の、ある夜になると決まって現れ出るものがあった。それが実在なのか虚無なのか、それはまだ知らないのだがしかし少なくとも、希望の光をうちに秘めた存在に思えた。前に言った彼とはこの存在を指し示す。

 ある時期というのを知ったのは至極偶然からだ。いま天に広がる雲の隙間から、光が射し込んでいる。夜であるにもかかわらず、今夜のように不思議で暖かな光が地に降り注ぐことがあるのだ。初めてこの現象を目にした時、私の精神はひどく揺らいでいたのだが、少し心が洗われたような気がして、何の気なしにふらふらと散歩したい衝動に駆られた。そして私は、彼との邂逅を果たしたのだ。

 出会ったところは、私とアイカの住む洞窟に間近い快く澄んだ滝だった。ここは普段から水の宝庫として、また水浴びなどにも愛用しているもので、その夜も少し落ち着ける場所をと思ってそこへ赴いたのだった。

 私は我が目を疑った。今現在にして太陽が煌々と照りつけているのではないかとすら思ったほどだ。滝より手前にいたのか、それとも後ろ側にいたのかそれはわからなかったが、宙に浮いた水の塊の中に光源があるかのように、青白い強烈な光を発するものが、滝に佇んでいたのだ。その詳しい外形については何も言えないが、無駄のない締まった体の、勇ましい獣のような姿だったように思う。鬣らしきものを、常に風に吹かれているかのようになびかせ、鋭そうな角らしきものが、整った顔と共に、まっすぐに天を向いていた。

 それでも、どんな物体であるのか皆目見当がつかなかった。しばらく、本当に永いこと我を忘れてその蒼き炎に魅入っていたのだが、一向に立ち去る気配がない。それどころか微動だにしない。じっと、力強く天を見つめて静かな滝の中にいる。生き物には違いなかったが、とてもこの世のものとは思いがたい姿と立ち居振る舞いだった。

 先に立ち去るのは決まって私の方だった。接触を試みたかったが、どうしても踏ん切りがつかなかった。アイカがどうのということではなく、単純に恐ろしかった。死への恐怖というのも少し違う気がする。ただ、触れてはいけないと全身が命令していた。触れたら全てが壊れてしまう、そんな気がした。

 立ち去ってから、夜を越えて朝が来て、私はいつも滝の様子を見に行った。しかし、そこには彼が実在したことを示すどんなに些細な証左も残されてはいないのだった。

 今もそう、彼に会いに行こうとしているのだ。そして彼を、狩る。悲しい決意を胸にして、私は滝へと続く細い草原の中の道を歩む。前方からの、神々しいまでの目映い光が私の瞳に届いて来た。

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