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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第三章「祈りの聖夜に」

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第六幕「愛に、祈りに、次なる調べを」

 締麗な花が、咲いたその地にアイカは静かに仔んでいる。奇遇といえば奇遇だ。素晴らしいといえば素晴らしい。そう何度と洞窟を探し回った訳でもなく、私はまだ小さかったアイカを両腕に抱いて這うようにして歩いていて、ふと目にした洞窟の口が、ここへと繋がっていたのだ。それ以来、私たちはここに居を構えている。

 そう、アイカは成長してくれているのだ。あたりに芽吹いた小さな花の子供たちと共に時を歩み、共に成長する。やがて咲いた花だけが、締麗に限りある時間を輝いたかと思うと今までの輝きが嘘であるかのように、生命を繋ぐものを逞しく残して、静かにゆっくり枯れていく。そんな風にして季節が巡り行く様を、私はアイカと一緒に何度も見送ってきた。その中にいてアイカはずっと、花のように美しかった。そして今なお、その輝かしさは廃れてはいない。アイカは、ずっと輝いていた。私の心の中でも、愛おしい思い出と共に、アイカは、ずっと輝いていてくれた。

 だだ現実に於いてはそれほどの輝きがあろうか。見た目の華やかさとは裏腹に、何の行動も取れない、華審なその手も、白く光るその足も、あの瑞々しい声も、愛らしい笑顔も、何もかもが、動きを止められてしまっている。この時、私は何をしたらいい? 私の手は、顔は、呼吸は、目は、鼻は、耳は、声は、一体何のために?

 そこに答えを求めることはできない。そもそもその答えはない。しかしそれでも私の体は彼女に捧げるためのものであるはずだ。いくらかまた萎れだしてきた花々を摘み取り、座り込んだ彼女の手にそっと握らせ、締麗な顔を覗き込む。

「行って来るからね、アイカ……」

 私には、この夜の間にどうしてもやり遂げねばならないことがあった。その運命の時刻の、私自身の覚悟の確かさを確認すべく、限りなく狭い空を見上げる。そこから私の目に射し込む光が、私の瞳を獣のように細くさせた。

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