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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第三章「祈りの聖夜に」

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第五幕「閉ざされたふたりのための光」

 長い長い家路を辿って行き着く先は、暗く暗黒に口を開けた洞穴だ。何か温かな出迎えがある訳ではない。家、居住するために自らが作り上げる空間というものに憧れを抱かなかったこともないが、今の私に、それを一から組み立てるほどの余力があるはずもなく、こうして何でもない小さな空洞の中に、仮の住まいを設けているのだ。そしてアイカさえ良くなってくれれば、この洞穴に長居する理由もない。

 採ってきた物たちを抱え、視界の利かない洞窟の中で壁にぶつかることのないよう、十分に留意してアイカの元へと足を運んで行く。もう道順には離れた。だが、まだ暗い所は苦手だ。あの時の、苦々しい記憶が、私の本心が生み出した愚直な行動が、目をつむろうとも、またアイカとの楽しかった日々を回想しようとしても、それらを打ち破り私の心を責め苛む。その度に、私は人間と呼べるのだろうか、私はこれ以上生きていく価値はあるのだろうかと脳が割れるほどに自間する。だが実際その考えは安らぎに逃避しようという愚かな考え方であるという事実もまた同様に良く己に唱える。アイカをああにまでした張本人である私がそう簡単に命を投げ捨てて良いものではない。死は単なる現実逃避、それで全てを償った気でいる自己満足、自慰行為だ。せめてもの償いをする、そのために己を捨て尽力するという道の他に、選ぶ道などない。そこに希望と呼びうる一条の光が、存在しようとしまいとおまえはいつまでもいつまでも、細長い闇に閉ざされた道を、命の砕け散るまで歩くことに没頭しなくてはならないのだ。歩け、歩け歩けあるけあるけあるけあるけあるけあるけあるけあるけ……。

 唐突に光を目にしてあたりを見回すと、果たして一方に於いては目指した所へと辿り着くことができたようだ。この洞窟の最も奥の広場には、夜でも光が届くようになっている。頭上に、空と我々とを遮る天井が存在せず、夜の微光がある程度差し込むようになっているからだ。その灰暗い中に、静かに佇みそして顔を青く照らされて、何処を見るともなく、沈黙して、どこか悲しげな眼差しで私の足下を見つめるアイカがいる。 いつもとおなじように。百年の昔から、そこを微動だにしたこともないという、厚い氷の壁に、封印されてでもいるように。

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