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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第三章「祈りの聖夜に」

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第四幕「あるいは、その果てに目指すもの」

 夕食の時刻だ。幸い食料に事欠くことはない。今私たちが棲み暮らしている所のすぐそばには、果実と野菜の類が実に豊富に揃っているからだ。水分というものにも恵まれることとなった。以前は大分それ等に苦労させられていたものだが、いざ何不自由なくなってみると、案外に何でもないものなのだなと思った。結局は生きていく上になくてはならないものであって、それに四苦八苦することもなくなってみれば、空気を吸うことと同様、自然と生活の中に溶け込んでしまうものということなのだろう。太陽もまた、そうして呆気なくどうでも良いものとなっていくのでは、非常に寂しいことだ。

 いくら不自由しないとはいえども、それを得るためには当然取りに行かねばならない。太陽も地平の向こうに沈んでしまった。いつものように、散歩がてら食物を取りに行くとしよう。

 この地は、草原というにはほど遠いがしかしなかなか生命に満たされている。所々に草が群生していて、今のような夕刻過ぎにもなると、実際見たわけではないが大小様々の虫が、そこでそれぞれ思い思いに声高らかに合唱する。朝方には草の外で、日光を浴びて元気に這い回っているものもあるが、この時刻にはそうした虫は少ない。故に、草を踏むことさえ避ければあまり無碍に虫を殺すことをしなくてすむ。そして意味もなく小さな命を奪って不快な思いをしたくない私は、外出はその限りではないが大概はこの時間にしか歩き回ったりはしない。

 そう、それにあまり外出をしないということは、他の意味でも多分に重要であるのだ。アイカを一人にしておく時間は、できれば避けたいものであるからだ。連れていけるならそうしたいが、それはできない。アイカは自分からは動くことすらできないのだ。いや、動く意志が、心がないのだ。そして私は、もう昔のようにアイカを抱えて歩くことはできない。私の足は、もうそれに耐えることができない。

 その点では不自由を知ったことはないであろう、そして此からに、それがあるのかもしれない体躯の二倍はあろうかという翼を勇ましく広げた鳥が、私に影を落としそして彼方へと去って行く。帰る家を、目指しているのだろうか。夕方の静かで肌寒い風が、私の体を通り過ぎて行く。早く、うちに帰ってあげなくっちゃ、な。咳いて、私は早足に深く沈んだ青い平原を歩いた。

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