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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第三章「祈りの聖夜に」

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第三幕「天空に落ちる陽のもとに」

 雲の下方から、少し少しと、光り輝く聖なる滴がその存在を現し始める。目を射る閃光。

 私は、その矛先のあまりの咳さに、思わずつと瞳を閉じる。瞳の中で、いつの間にかその鋭い刃は優しい温もりの海の一滴へとその姿を変え、私の淀んだ瞳を包み込む。そう、誰彼構うこともなく、私のような汚れたものにすら、溢れ余る清き慈悲を与え給うて下さるのだ。これが、神でないとするなら他に何をそれと呼ぶことができょう。このことにせめてもの感謝を捧げないのなら、その人はその人の何を人間らしいと呼ぶことができよう。

 意志か、それとも肉体の限界か、私は引き寄せられ歩くとも倒れるともままならぬ挙動を続けていたが耐え難く、遂には地面に腑甲斐なくもへたと座り込んでしまった。段々と、果実が実る様を、年月を短縮させて見ているかのように、黄の色一色に鮮やかに輝く滴が膨らみを増す様を、静かに垂涎して圧倒されて見守る。自然の造形美と呼ばれるものについて、こんなにも生命力に溢れ叙情味に溢れたものというのを、本当に今の今まで見たことがなかった。丸みを増して膨らんでいく様に、何だか、憧れとでも言いたくなるような感情が込み上げてきた。

 ふたつある私の瞳には——こんな書き方をするのは、私にとって今、欠けていて不完全な状態であるものがあまりに甚大であるからだ——今、彼は欠落一つない極められた色彩美に彩られた、天女の羽衣のような、そう、アイカに着せてあげたくなるような、いや正確には着てもらいたくなるような姿で、理想、完全、永遠、一切、真実、至高、始祖、終末、唯一、無二、絶対、悲哀、勇気、絶望、強欲、享楽、憐偶、不遇、塵芥、そして祈り……、何故だろう、しかし見ていると畏れに呆然とした私の意識に錯綜してくる、多かれ少なかれそうした森羅万象とも呼べそうなものが凝縮された様々な顔を見せて現れてきている。がしかし、心の場合と同様にして私の瞳に映るものもまた、対象の外殻としか呼べないような貧しい姿なのであろう。そして人はこれを、希望や空想の絵の具を加えて天使とするなり、また実際現実に於いて天使と思える他者、または、悪魔や現実に忌み嫌う人間を投影したりするのかもしれない。ただ不幸か幸いかあいにく私の世界は殊人間的であるかないかという点で非常に狭い。また、それは絶妙に狭いものだと思っている。然る故に私の偶像は飽くまで自然、そしてその頂たる太陽にほかならないからだ。決して、自らの意志で汚れることなき絶対の存在としての、美の理想型としての自然なのだ。また同時に、非情に徹底する、完全他者、父としての自然でもあるわけだ。この点では、私は人に囲まれ過ぎて暮らす人々よりも幸せなのではないのだろうか、と信じている。

 こんな思索を巡らすうち——それといっても、この時間に関してはいつものことだが——太陽の、雲とそれとの最後の接点が、今まさに千切れようとしていた。彼らが秘密裏に行っていた蜜月も否応なくも終わり、太陽は、肉体を曝すことへの恥じらいからか、今までよりも一層輝いて、艶やかに揺らめいて見える。滴は零れ落ちる音も立てず、飽くまで、完全者としての地位と気品を漂わせている。そして、完全なる円形が、遂に私の眼前にその姿を現した。この形が、この輝きが、そしてこの華やかさが、私の脳裏にこびりついて離れてくれようとはしない。そして、彼がこの姿を曝してくれる時間を、私は決して逃さない。畏れ多くもいま、私の瞳にはその美しい図形が重なっていることだろう。そして反射投影の側面から捉えるならば、私を形作るものは、この太陽光を措いては他にない。私の精神の原型ともいえるものを構成するのが彼であるなら肉体という部分に於いてもまた、彼は私の創造主であるのだ。

 そして、厳粛なる神の御座の前に、私は祈りを捧げる只人となった。元々只人であるのを、心からそう思った、という訳だ。そして、大事な願い事もしておいた。明日にもこの、偉大なる神に祈りを捧げられますように。

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