第一幕「広がりとその始まりに」
ずっと遠くのその先までが、今では明らかなまでに見えるようになった。ずっと、小さい頃から願っていた、世界の広がりを、心の中だけでなく、この目で見てみたいという念願は、ついに叶ったのだ。だがこれが、私の望んだことなのか……? 確かに世界はとても広くて、見ていると自分という存在があまりに小さく思えて、少し怖くなってしまうほどだ。風も穏やかで心地よい。これだけでも多分に、今まで生き抜いて来られて良かったと満足しても良いはずなのだが、本心の方はそうは言っていない。なんだか、広い広い空の、淡く赤みがかったうす青色は、私の悲しい心の色が、そのまま現れ出たかのようだ。
そうはいっても、完全にその寂しい色が、全天を占めているというのではない。いつまでも白い、無機質で不変の雲が、まるで空の蓋であるかのように上空に君臨している。以前は霧と呼はれていたそれは、今は空の彼方にのみ存在するだけとなったのだが、それはそれで手の届かない天高くから私たちを愚弄しているようで、いまだに好きにはなれない。
私たちというのはそう、私とアイカ、それにもう一人のことだ。そのもう一人については、今はまだ語るまい。というのも、私は彼が傍にいない時に彼について語ろう等ということには、信用を置くことができないからだ。何かを語る時その何かを傍に置いて語る方がよほど信憑性が高いというのは自明の理だ。少なくとも私はそう信じている。




