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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第二章「縷々たる日」

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第七幕「血塗られた欺繭」

 気づくと、私に触れる物は、ただ静かな岩肌だけになっていた。雨がすっかり上がってしまったのかとも思ったがどうやらそうではない。耳には、遠くの方でまだ雨が降り注いでいるのを教える音がある。とすれば、ここは一体何処なのか……。

  立ち上がってその確認をしょうと思ったが、重心がぐらりと揺らいであろうことか転んでしまい、顔面をきつく岩肌にぶつけてしまった。そういえば、私の足は、もはや正常には機能し得ないのだった。私はそれと同時に、先ほどまで私がしていたことを思い起こしていた。雨の中を、ただひたすら走り続けていたのだ。体の濡れ具合を手探りしてみるが、致命的というほど、その表面は濡れていない。どうやら、助かったようだ、我々は……。

 アイカ? 私は、アイカを、ここに連れて来たか? 焦りと不安に、私は激しく焦燥した。

「アイカ! アイカ!」

 私はあたりをすぐに探し始めた。あの時の記憶は定かではない。私はひょっとして、彼女を抱えてここまで連れて来ていたかもしれない。そう、彼女は私におぶわれていて、そしてここまで……。

 しかし、それはあり得ないことを悟った。なぜならば、私はあの時、両手を彼女から解放してしまっている。彼女を、その時点で落としたに違いない。なんということだろう。私に縋りついて、涙で顔を濡らしていたあの子を、他に頼るものもなく、必死で私に継りついていたあの子を、無情にも、むざむざ死ぬためにあるような場所に叩きつけて放置したというのか。あれだけ、この子だけは守り抜こうと、心の中で何万回と唱えていたというのに、捨て置いて来てしまったというのか。

 私は心の中で何百回と己を呪った。何百回と己を殺した。何故そんなことをした? 何故そんな愚かなことをした? 何故? 何故だ? 何故なんだ!

 もう生きてはいけないことを覚悟で、雨の音のする方へと急いだ。いや、自殺をしに行ったというのが、より適切かもしれない。あの子なしでは生きていけない。生きていく価値もない。命を、その時、全て彼女に捧げた。

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