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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第二章「縷々たる日」

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第六幕「闇の翼」

 これを喰うのか? これをまた体に戻さなければ、私は生きていけないのか? 私は決断を迫られていた。これを喰うということはすなわち、人の肉叢を喰らうに等しい。人として生きるのか、獣として生きるのか、それを決断させられようとしているのだ。

 先ほど砕けた足は、今どんな形をしているのか、皆目見当もつかない。激痛は、先ほどから休むことなく続いている。それが、私の意識を十分な活動状態にしている。これがそうでなければ、虚ろな物であったなら、私は何を構うこともなくこれを再び我が身に納めることも可能なのかもしれない。

 その時、私の背中を湿らす物があった。始めはあまりにも細微な一滴であったが、濡らす回数を重ねるたび、その規模は大きくなってきた。雨、だ。

 なんということだ。これに降られるということが何を意味するか。これで体を濡らし切ってしまうようなことがあれば、恐らく私は一日と生存できまい。今まで、縷々として繋がってきたこの命ではあるが、それが強靭を意味するでもなく、この自然という驚異の前には、私など、それこそ微塵のような物に過ぎないのだろう。

 喰おうか喰うまいか、そんな理性の判断の在処など、私の頭にはなかった。雨であるという事実を確認するなり、私は足の痛みのことなど全く思うこともなく駆け出した。

 ひどい空腹もあったにもかかわらず、私は驚くほどに俊速であった。絶対的に追い詰められた状況下においては、本能の錆びつぃた人間でも、それを呼び覚ますことができるということなのだろうか。木々に激突する回数が少ない気がするのも、それの働きに因って激突が自ずと回難されているからなのだろうか。

 木々があるのは他方ではありがたい。体への降雨を大幅に減殺してくれるからだ。ただ、それが故、私が安らぎを得られるというのではない。この雨は折しも豪雨だ。いくら、森に身を潜めて、体を守ることができるとはいえ、これほどに激しいのでは結局事態は深刻だ。

 雨が、反吐も涙も私の顔から洗い流していく。私の体を突き破り心臓を貫こうとする幾億の矢のようにすら思える。地表がそうであるように、私の体も、心も命も、私の何もかもが全て溶けてしまっているような、漆黒の海の中を駆けているような、言葉では成立しない世界に、私はいる。本能が、そうさせたのか、私は思わず両手を広げて、翼なき鳥となって、暗黒の空を駆け抜けた。刹那、その闇を飛んでいた私の朽ちかけた翼に、空が、光が、太陽が触れた気がした。

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