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Singalio Rou' Se lef  作者: 篠崎彩人
第二章「縷々たる日」

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第五幕「空虚の狭間を」

 また、アイカを寝静めることができた。喉が、焼けるように渇いてしまった。アイカがこうしてくれている時にしか、水分や食料を求めて歩くことはできない。私は、アイカを背に抱え、当て所もなく、命を繋ぐ物を求め歩き始めた。

 手足がいつ、ほろぼろと朽ち果ててもおかしくはない、そんな感覚を覚える。ただ、今それ等に痛みはない。アイカの重みが手に微々たる刺激を与えている。地べたを踏む感覚もまた微少にある。そうした物で、私は自分の肉体に手足があるという事実を知ることができる。

 しかし、痛みという痛烈な感覚が消えてしまっているという訳ではない。視覚に頼ることができないので、始終あちらこちらの木々に激突することになる。その痛みは、少々耐え難い。だが私の体など、いくら傷つこうとも特に気に掛けはしない。ただ、それでアイカを起こすことになって欲しくない。アイカには、夢の中にいてもらいたい。

「ぐっ!……」

 私の願いを掻き消すかのように、森は私に激突を、アイカーに衝撃を与えることを強いる。木々の擦れ合う音は、私をせせら笑う声に聞こえる。あれらは寄ってたかって、我々を虐げるつもりなのだろうか。

 私の足下で、骨が勢い良く砕ける音がした。と同時に鋭い痛みも込み上げてきた。不意だった。私は悲しくなった。もう、これきり歩けなくなったのだ、このままこの場に倒れて命が尽きるのを待つよりほかなくなったのだと、私は思った。

 嘔吐するほどの絶望と嘆きに、口内が苦々しさで支配されて行き、滝のように、今まで溜め込んでいた物が、どっと溢れ出した。声にもならないほどの、圧迫され過ぎた私の激情が、今こうして反吐と一緒に吐蕩されている、そんな風にも思えた。

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