終幕「悲しみは海の彼方に」
もう、浜辺には誰もいない。また、私とアイカの二人きりだ。以前はそれでも良かったはずだった。でも今のこの寂しさは……。
アイカ。ひとりぼっちの微睡みの中で、彼女は今どんな夢を見ているのだろう……。昨日の楽しかったひとときに、心躍らせているのだろうか……。裏切られる悲しみを夢想だにせず、だだあの時の安らぎに心寄せていたはずのこの子。それは、彼女にとって、知るべきではない心地よさだった。その心地よさに酔ってしまえば、それを削がれた時の痛みもまた、大きな物となってしまう。その痛みに、この子は、果たして耐えられるほど強い子なのだろうか……。
私がいればいい? いやそれは違う。この状況で、この子に信じたものの崩壊を体験させるのは、回避されるべきことだった。だがもういまさら、どうすることもできない。ただ、祈ることはできる。それはとても小さなことだけれど、今私ができる最大のことだ。 だから、お願いです。 貴方がくれたこの世でたった一つの、私の小さな太陽が、その可憐な心を凍えさせて、輝きを失ってしまうことのないようにして下さい……。揺るぎない、一つの灯火を、私に与えておいて下さい……。
そして彼女が目覚めたら、何よりすばらしい食べ物を食べさせて、何よりすばらしい歌を聞かせてやろう。そう、夢の続きを、この子に見せてあげるんだ。だから、今ここで僕は、立ち止まっていちゃいけない。歩いて、歩いて、歩き続けなくっちゃ……。
できる限りの優しさのつもりで、アイカを抱きかかえる。依然として白濁した霧は、そして、私を現実へといざなうのだった……。
The End of Singalio Rou' Se lef Episode 1




