第一幕「白昼夢」
深い純白の霧が、あたり一面を包み込んでいる。霧と霧の隙間からは、あたりの白さとは対照的な赤茶色の荒野、それが点々と見える。見れば見るほど、その生命感とは無縁の荒野は私の掲きを増幅させる。水が……欲しい。そう咳くこともしなくなって幾日が過ぎたのだろう。そんな無用な事柄を覚えて置くほど、私の記憶は便利にはできていない。
だがしかし、心の渇きに悶絶することはない。何故なら私の傍らにはいつも、今は私におぶさられ、可愛い寝息を立てて眠る小さな天使がいてくれるからだ。いつまた手に入るとも知れぬ、いつまた尽きるとも知れぬ水、食料はこの子、アイカに最優先で与えることにしている。それは、この子を命に代えても守り抜きたい、という使命感に突き動かされてのみしているのではなく、この天使の笑顔こそ、私を癒してくれるからだ。この天使がいてくれたからこそ、私は生き抜いてこれたのだ。
気づけば、出る汗という汗は、すべて出し尽くしてしまったようだ。とても血が通っているとは思えない私の腕は、まさに骨と皮しかないようにしか見えない。額にも胸にも足にも、口内にすら水分らしきものが感じられない。だが頭の機能はある。心持ちもしっかりしている。まだ、まだ、歩ける。呪文のように何度も繰り返しながら、私はひたすら歩み続けた。




