マーガレットの苦行
空は太陽の光がサンサンと輝き、絶好のデート日和だ。デートの当日になってしまった、マーガレットの心の中は曇天。
「今日も綺麗だ、マギー。」
レイクリフは一つ覚えを繰り返している。
街を歩く二人は目立っている、それが目的なのだが、必要以上に絡んでくるのは止めて欲しい。
「ありがとうございます、レイクリフ様。
レイクリフ様も素敵ですわ。」
19年張り付いた公爵令嬢仕様もボロがでそうだ、棒読みになっている。
繋がれた手を街中で振り払う事もできず、マーガレットはレイクリフに宝石屋に連れ込まれた。
「いいか、犯人に金を渡した者や情報を流した者の目につくようにするんだ。順調に結婚話が進んでいると思わせるんだ。」
途中で逃げ出すな、と昨夜散々ギリアンに言われた言葉をマーガレットは思い出す。
仲良くしろ、とは言われなかった。
「お嬢様は、何でもお似合いで、こちらなどいかかがでしょう?公爵。」
はっ、と気がついたら、腕には巨大な石のついた鎖が巻かれている。キラキラ光る手錠にしか思えない。
石はダイヤモンドで、鎖は華美な装飾の繊細なデザインの金細工というのが、マーガレットにもわかった。値段がついてないのが恐ろしいのに、レイクリフは貰おう、と軽々しく言う。
ひーー、舞踏会のネックレスに劣らず高そうだ。
「ま、待って、レイクリフ様。」
「よく似合っているよ。」
街歩きで、目につく店に入ってはマーガレットに次々買っている。だが、これはいけない。
「記念に買うには高すぎます。」
いろんな意味で重そうな物いらない。
「女性にプレゼントするのが、こんなに楽しいと初めて知ったよ。
ドレスをプレゼントしたのも宝石をプレゼントしたのも、この間の舞踏会が初めてだった。
他の男共が、何してるんだと思っていたが、やっとわかった。」
デートって、こんなに買い物をするものなのか?よくわからない。
「私はいりませんわ。」
「マギー、俺の楽しみだよ。」
お前の楽しみなんて知らないんだよ!とは、口に出せないマーガレット。
買わない、という選択肢はないのか。なんだかドンドン金銭的借りが増えるような気分だ。
「そうではなくて、普段に着けれる物の方がいいの。」
せめて高い物は止めて欲しい、この店の最低ランクでも、十分高価だが・・・・
「マギーが俺のプレゼントを普段毎日着けたいって。」
夢みるレイクリフが、聞き捨てならないことを言う。
ダメ、ここで暴れたら店が壊れる。宝石屋を壊すわけにいかない、我慢、我慢。
これはミッション、これはお兄様に負けた罰ゲーム。
「お似合いのお二人には、こちらはどうでしょう?」
店主は、金のある客にホクホクである。
ゲッ、指輪、しかもお互いの瞳の色の石を出してきている。
やめて欲しい、剣を持つ指は太いんだよ・・・・乙女に恥かかせないでよ。
「マギーの指は細いな。」
イヤミか、お前のごっつい指に比べれば誰だって細いよ。
「レイクリフ様、指輪よりこちらのブローチの方が可愛いと。」
大きな石をはめ込んだ煌びやかな商品の中で、小さな可愛いブローチが目に付いていたのだ。
聞く耳持たない男は馬鹿力で、手を持って引っ込めさせない。第一、揃いの指輪はごめんだ。
「このデザインなら石も小さく埋め込まれていて、剣を持つのに邪魔にならないな。」
レイクリフがサイズ合わせをしながら言う。
さすがだよ店主、軍人に出す指輪に抜かりはない、恐れ入ったよ。しかも、石が凄く光ってるぞ、小さくても質のいい高額品を持ってきてる。
「指輪はこのまま着けていく。」
レイクリフが上機嫌で金を払っている。
「それから、これはさっきの代金だ。
あのブレスレットはマギーによく似合っていた。グラント公爵家に届けておいてくれ。
それと、さっきマギーが見ていたブローチもだ。」
な・ん・だ・っ・て!?
お前はアレをおねだりと取ったのか、やめてくれ。
「グラント公爵家の姫君でしたか、本当にお綺麗で。」
店主のお世辞に、俺の婚約者だ、と嬉しそうに言うな。何かがガリガリ削られて行くのが自分でわかる。
宝石屋を出ると、さっきより視線が集まっている気がする。
「指輪外すなよ。」
さっきまでの浮かれた様子もなく、レイクリフが小さな声で言う。
「この指輪の噂は直ぐに広まるだろう、それが目的だからな。」
うん、と頷いたものの、上手くごまかされた感がする。
じゃ、ブレスレットいらないよね。
しかも余計な一言の為にブローチまである。
「レイクリフ様、疲れたので帰ろうかと思いますの。」
体力は自信あるが、精神が疲れた。お前は凄いよ、ヘロヘロだよ。
世の中のカップルはどうしてるんだろう、好きな相手だと楽しいから疲れないのかな?
「では、少し休憩しよう。この先に話題の店がある。」
えー、と思ったが、よく考えるとこの先の店とは、美味しいケーキのあるカフェに違いない。
窓際の席に座ったが、周りの注目がイタイ。レイクリフは有名人なのだろう、女性の多い店内でひそひそ話が聞こえてくる。
この間の舞踏会で婚約は周知されたから、さらにである。
これで、犯人しっかり釣れてくれよ、願いながら運ばれてきたケーキを口に入れた。
「美味しい。」
ほぉ、と思わず顔が綻んでしまう。疲れた心には甘いものよね。
「マギー、可愛い。」
しまった、目の前にヤツがいた。しかも指輪を見せつけるかのように、私の指を撫でている。
やめれ。
目で合図するが、ヤツには伝わらない。
「レイクリフ様、おやめになって。」
首を少しかしげて言ってみた。
「マギー、可愛い過ぎる!」
逆効果だった。
コイツは私に虐げられたい変態じゃなかったのか?
お読みいただき、ありがとうございます。
初デート同志、マーガレットはぶっつけ本番で来てますが、レイクリフは女性の喜びそうなものを周りにリサーチして来てます。
レイクリフ全力です (*ノ∀`*)ペチ