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君は無敵の姫君  作者: violet
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レイクリフとギリアンの密合

時系列では、前話より1週間程前で舞踏会翌日の話になります。

ギリアンの囮の言葉に至る、静かに動き始めた情報収集のギリアンとレイクリフです。

「申し訳ないね、グラント宰相補佐官、時間を取ってもらって。火傷の状態はどうかい?」


ギリアンの元にレイクリフからの使者が来た、それは舞踏会の翌日の午後だった。

『内密に、至急の話がある。』


将軍執務室で書類を読んでいたレイクリフが顔をあげ、入って来たギリアンに対応する。

「ここに来ることは?」

「宰相と王には報告してあります。宰相からは、昨夜のことを最優先で処理するよう言われてきました。

たいした火傷ではありません。お気になさらずに。」

ギリアンの言葉に、ではと1枚の紙を取り出した。

血のついた王宮見取り図。


「襲撃犯達が持っていたものだ。王家の居住区が詳細に描かれている。」

レイクリフの言葉にギリアンも、たしかに、と言う。

ギリアンがレイクリフに近づくとかすかに血の匂い、この見取り図からではなくレイクリフからだ。顔を僅かにしかめたギリアンを察したレイクリフ。

「悪いな、臭うか。さっきまで訊問していたから。」

「いや、気を使わなくともいい。

僕は文官だが、領地では私兵隊で訓練を受けている。将軍はすでに調べてあると思うが。」

口の端を上げただけで答えるレイクリフ。

グラント公爵領には金山があり、警護に大規模な私兵隊が存在している。

ギリアンもマーガレットもそこで護身の為に幼い頃から訓練を受けた、マーガレットは才能があったようだ。


「グラント公爵家はすごい家だな。

調べれば調べる程、欲しいと思うよ。それを背負う負担も相当だろう?」

「同じ言葉をお返しするよ、ワーグナー公爵。あの港はすばらしい。」

先に笑ったのは、レイクリフかギリアンか、男達に笑い声が出る。


「そういう事だ。誰が見ても欲しがる。ウォール王国もな。」

「不穏な動きがあるのは知っている、だからこそのワーグナー公爵と妹の婚姻だ。」

もう二人ともわかっている、王宮に忍び込むのがただのならず者ではないことを。


「街で女に声をかけられた、婚約発表を壊してくれと。そう言っている。

生き残りの3人のうち、一人はさっき死んだ。

街のならず者程度が、あの拷問でも口を割らないとはありえないな。」

それならば、王子を誘拐する必要はない、火事だけで十分だ。

「そうだ、補佐官も誘拐のリスクは大きすぎると思っているだろ、しかもこの見取り図。」

あの拷問、レイクリフが言った言葉にギリアンは身震いする。この会合の為に身ぎれいにしてきたはずだ、それでも残る血の匂い。

この男はただの女好きではない、弱冠28歳で将軍に登った男なのだ。公爵家という身分も使ったであろう、この男は必要な事には手段を選ばない。


レイクリフから冷気が噴き出すように冷たい気配が漂う。

「金を出した女はいるのだろう。

だが、それだけじゃない、ウォール王国に情報を流した人物がいる。女と同じようにこの婚約を喜んでいない人物。」

両家に敵対する人物、王家にあだなそうとする家があるのかもしれない。


「王弟ジルベール・アルビリア。」


ガタンッ、レイクリフが出した名に、思わずギリアンが立ち上がった。

レイクリフは獲物を狙うかのような鋭い目つきで、ギリアンを見つめている。



ドスン、とギリアンが椅子に座った。

「そんな、内乱になってしまう。」

顔は片手で半分覆っている。


「2年程前になるか、マギーに縁談がきた。王太后のところで見染められたらしい。

父も僕も即座に断った、マギーは公爵令嬢として完璧な教育を受けているが、どう間違ったか好戦的に育ってしまった。

マギーには他国の王家からも縁談がたくさんあったが、それがあって断っていた。

嫁いだ先で、剣を振り回されたら、戦争を仕掛けているのと同じだ。

その相手は、よほどマギーが気に入ったらしく断っても引き下がらなかった。

だが、父にも僕にもその縁談は決して受け入れられるものではなかった。

相手が王弟ジルベール殿下だからだ。」

やはりな、とレイクリフは思う。

婚約発表の舞踏会で、レイクリフに殺意のごとくの視線を投げてきたのは王弟だったからだ。


現王は柔和な性格で統括面では秀でているが、知力、武力ともに弟ジルベールの方が優れていると言われている。

現王がワーグナー公爵家から正妃を得た事と、ジルベールより7歳年上であることから問題なく王位に就いた。

王弟であるジルベールが、国を二分する勢力のグラント公爵家から正妃を娶れば、答えは見えている。隣国の脅威が大きい今、強い王が欲しい。

幼子の王太子より、グラント公爵家の後ろ盾のある王弟が王太子との声が出るだろう。


「マギーも少なからず想っていたと思うよ。

ジルベール殿下はマギーの理想の王子様そのものだからな。

あいつ乙女チックなんだ。」


ガタンッ!!!

今度立ち上がったのは、レイクリフだ。

「そんな事であきらめられるか!」


ふー、と溜息をついたギリアンが吐き捨てるように言う。

「我が妹ながら、大変なのに好かれてるよね。あっちもこっちも。」

内密にウォール王国と情報をやり取りできるとなると、かなりの権力がないと難しい。

「わかったよ、それはこちらで探ろう。

軍が動くと、すぐにバレる、あっちも用心しているだろうからね。

それに、疑わしいだけだ、同じ状況の男は他にもいる。軍が探るとなると、いらぬ臆測が生まれる。」


ギリアンとレイクリフの視線がぶつかる。

「敵には回したくないね。」

レイクリフの声のトーンが低い。答えるギリアンもトーンが低い。

「お互いにだな。」


女の方より男の方が厄介だ、どうしたものか、と打ち合わせが続く。

簡単には証拠を(つか)めないだろう、潜入するには時間がかかりすぎる。どれほどの情報が流れ出ているかもわからない。

陽動するしかないですね。

エサはうちの妹です、女も男も釣れるでしょう、事もなげに言うギリアンは勇者かもしれない。




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