それぞれの想い
王と王弟は仲のいい兄弟である。
年が離れていることもあるが、同母から生まれたからかもしれない。
「ジルベールは美しい子供だったよ、私の楽しみだった。」
「兄上は私を大事にしてくれました。だからこそ、兄上を支えていきたかった。」
二人でグラスを交わしながら昔話をしている。
「慣れない国で、苦労も多いだろうが、ジルベールなら乗り越えられると信じているよ。」
「兄上。
王女を大事にして、私も幸せになろうと思ってます。」
祝勝会に乱入してきた男達を匿うには、王妃付きの侍女だけでは、無理である、他にも仲間がいるとすぐにわかった。
それが前王の腹違いの弟であるステラ公爵であった。王族男子は一代公爵として、王家を離れる。本人が亡くなれば爵位は無くなる。その間に、爵位を得るか領地を得るかをしないと、子供は領地も爵位もない貴族となる。
ステラ公爵もそんな一人である。武勲をたてることも、叡智溢れるというわけでもなかった。爵位を得ることないまま高齢になり、王家を憎んでいたのであろう。
せめて、前王である兄と仲がよかったら、また違ったのかもしれないが、それもわからない。
「ジルベール。」
王の言葉を遮って、ジルベールは首を横に振った。
「兄上、私も王族です。国の憂いは取り除かねばなりません。
姫は私の初恋でした、叶わぬ思いとわかっております。」
ジルベールを王にと望む声が、この戦争を通してさらに大きくなってきている。それに危機感を王もジルベールも持っているのだ、この国を出た方がいい。
繊細に作られた顔のパーツは、数多くの女性を虜にしてきたが、今回の武勲で熱狂的なものになった。
ジルベールの婚約を発表したら、大きな騒動が起こるだろう。
「陛下、会議室に宰相、将軍を含め、全員揃いました。」
時間です、と侍従が呼びに来た。
王とジルベールは、ステラ公爵の処分を決める為に、会議室に向かった。
父は王宮に行ったまま何日も戻って来ない、兄にいたっては祝勝会の夜から帰ってきていない。
途中のレース編みをサイドテーブルに置いて、マーガレットはベランダの方を見た。
壁を登って、レイクリフはあのベランダに姿を現したのだ。
「どうしちゃったかな、いないと寂しいなんて。」
マイナス135点の男なのになぁ、理想からは遠いのになぁ。
アイツが来ないなら、私が行けばいいんだ!
マーガレットは立ち上がり、出かける用意をしだした。ドレスを選び髪を結う。
家令に馬車を用意させ、乗り込む姿は、剣を振り回した人間と同一人物には見えない。
剣の代わりに手には紙包みを持っている。
急遽作った大量のサンドイッチ、父と兄とレイクリフの分がある。これを父に届ける名目でレイクリフに会いに行くつもりだ。
王宮に着いて宰相である父の執務室に向かう途中で、マーガレットは沢山の視線を感じていた。密やかに聞こえてくる囁き。
「マーガレット様よ。」
「助けていただいたのよ、ステキだったわ。」
マーガレットには身に覚えがないが、偶然助けた形になったのかもしれない。
祝勝会では、ジルベールとギリアンが株をあげた、家には元々きていた分も含め、大量の縁談がギリアンに届いている。
実は、最も人気が出たのはマーガレットだったのだ。
こっそりマーガレットを見ているのは、侍女をはじめ女性ばかりである。
王太后を訪ねる以外は姿を見せないマーガレットだ、噂が独り歩きしている。
しかも、グラント公爵に叱られている姿を目撃されており、その姿さえ可愛いと評判なのである。
今までは、聖女と噂だったが、そこに強く、可愛いところもある憧れの人ナンバーワンに躍り出たのだ。
王家の覚え深く、グラント公爵令嬢で、次期総司令官のワーグナー公爵の婚約者、お近づきになって友達認定されたいと思う女性達を無視してマーガレットは王宮の中を進んでいく。
こっそり見られるのは慣れている、愛想を振るつもりもないし、声をかける気もない。
だが、冷たく無視されてステキ、と思う人種はいるのだ。崇拝者ができていく。




