マーガレットの情報収集
レイクリフやジルベール達がギリアン達文官を交えて、戦後処理の会議に入っていた頃、マーガレットも王宮にいた。
王太后とレース編みである。
「綺麗だね。」
マーガレットにへばりついているのは、王太子ハミルと第2王子ヒューイである。
「ありがとうございます、殿下。」
「僕もマーガレットの作った物が欲しいな。」
王太子の言葉で先に手を出したのはヒューイだ。
「マーガレット、僕も欲しい。」
はい、とマーガレットが差し出したのはハンカチである。
同じ意匠で、イニシャルがそれぞれ入っている。
「僕とヒューイのお揃いだ!」
「まあ、マーガレットありがとう。私からもお礼を言うわ。」
王太后が、王子達にハンカチを見せてもらいながら言う。
「兄上、一緒だね。」
お揃いで喜んでいる王子達だが、お揃いは他にもいる。
レイクリフ、ジルベール、イース、ギリアンだ、本人達は知らないが。
「父上に見せるんだ!
今は会議だから、終わってからだけど。
この戦争では、大変な事があったそうなんだ。反逆者がいたんだよ。」
王太子は、ハンカチを貰った興奮で、知っている情報を話し出した。
6歳児の情報など、たかが知れているが、王や周りから多少の情報は入るらしい。
兄も父も情報を閉じているので、マーガレットはほとんど知らない。王太子は良い情報源である。
レイクリフもジルベールもイースもケガをしている、それを聞いた時には、身体が固まったように感じた。
不安が急に押し寄せる、どの程度のケガなのか、凱旋を見た時はわからなかった。
死ぬ可能性だってあったのだ、それが戦争だ。
「マーガレット、顔色が良くないわ。
今日はこれで終わりにしましょう。」
王太后が、マーガレットを心配しながら言った。
王家居住区から馬車寄せに向かう途中に、マーガレットは南方部隊将軍執務室に向かうことにした。
王宮の侍女達が、レイクリフとジルベールの噂をしている。男性が噂しているのは、冷静に聞けるのに、女性が噂していると腹がたってきた。
何がカッコいいって、何がステキよって、こっち見てくれないかしら、って何よ!
コンコンコン、執務室の扉をノックしたがなかなか開かない。やっと開いて顔を出したのは見知らぬ顔の武官。イースが移動したことで、他の武官の移動もあったらしい。
「だから、何度来ても将軍はお会いしないと言っているだろう!」
開口一番がこれだ、他にも女が来ているらしい。
レイクリフに会おうと思ったのがバカらしくなってきた、もういいや。
踵を返したところで後ろから、叫び声が聞こえた。
「姫君待ってください!!」
あわてる声がするが、無視して歩き始める。
扉を開けた武官の後から飛び出してきたのは、マーガレットの顔を知っている古参の武官だ。
「グラント公爵令嬢お待ちください!」
だからと言って歩みを止めるつもりはない、聞こえない振りで離れようとしたが、部屋の奥からすごい足音がした。
「マギー!!」
ヤツだ。
「マギー!マギー!マギー!!」
うるさい、聞こえてるから連呼するな、わざと返事しないだけだから。
仕方ない・・・
「将軍、おケガをなさったとお聞きしたので御見舞いに来たのですが、お邪魔なようなので帰ります。」
後は知るか、勝手にしていろ、と去ろうとしたのに、ヤツは素早く前に廻り込んできた。
「チガウ、チガウ!
マギーより大事な用事などない!」
いっぱいあるだろう、仕事しろよ。
「マギー?怒っている?どうした?」
レイクリフに返事したのは後から出て来た武官だ。
「新人が姫様を追い返そうとしたんですよ。」
ギロッ!とレイクリフに睨まれて新人武官は震えあがっている。
「俺の大事な大事な婚約者を追い返すだと?」
「こ、婚約者?」
新人武官は、訪ねて来る女官達を追い返せと言われていたのだろうが、最初に名前を聞けばよかったのだ。
あの対応は悪かった、マーガレットも庇う気もない。
「帰るところなので離してください。」
レイクリフがマーガレットの手を握って離さない。
ダン!
マーガレットがレイクリフの足を思い切り踏んだ。マーガレットのピンヒールは武器だ。
あぅ、とレイクリフが声を抑えている。
「レイクリフ様、お大事になさってください。」
ふふん、とマーガレットは綺麗に笑って馬車寄せに向かった。
ちょっと清々したわ。
それに元気そうだった。




