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君は無敵の姫君  作者: violet
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それぞれの思惑

王宮から疾走する馬が数頭飛び出した。

先頭はレイクリフ、続くのはイース、そして数人の武官が続く。

僅かに遅れて、ギリアンと王弟ジルベールの騎乗する姿もあった。

目指すは孤児院である、街中を集団が駆け抜ける姿に民衆も驚くばかりだ。



爆弾を持ったミッシェルだったが、自分もろとも吹き飛ばす勇気もなく、護衛兵の連携攻撃により、手から爆弾を奪い取られたのだった。

武術の経験もなく、マーガレットへの憎しみだけの犯行では、訓練された兵士達に(かな)うはずもなかった。

そのミッシェルは兵達に監視されて軍の到着を待っていたが、捕まる時に刀傷を負い、意識もないようだった。



孤児院に着くと、レイクリフはイースを犯人引き取りに向かわせ、自分はマーガレットの元に向かった。


「ワーグナー将軍、ご苦労様です。」

王太后が、レイクリフに声をかけ、レイクリフが返事をする前に話を続けた。

「犯人は、将軍がお付き合いしていた女性と聞きました。」

詳細のない急報で飛び出したレイクリフは、王太后の言葉に驚くが予想はしていた。

「ミッシェル・シュテファン伯爵令嬢、身に覚えがありますでしょう?

逆恨みされたマーガレットが可哀そうです、震えていたのですよ。」

「私の不覚のいたすところで、申し訳ありません。

マーガレット姫は、私が生涯をかけて大事に守っていく所存です。」

レイクリフが片膝つき、王太后に返答をするが、王太后の後ろでマーガレットが舌を出してレイクリフを(あお)っている。


バン、大きく音を立てて扉を開いたのはジルベールである、その後ろにはギリアンの姿も見える。

「姫、母上、おケガはありませんか?」

「心配して来てくれたの、ありがとう。

護衛達がよくやってくれたわ。よく(ねぎら)ってあげてちょうだい。」

もちろんです、とジルベールは王太后に答えながら、マーガレットの前で膝をつく。

「姫、怖かったでしょう。震えていたと聞きました。」

「殿下、ありがとうございます。

王太后様の言われる通り、兵達が守ってくれました。我が国の誇りですわ。」

にっこり笑うマーガレットをジルベールが眩しそうに見る。だが、マーガレットの指に光る指輪が目に入ったのだろう、振り返ってレイクリフを見る目が燃えるようだった。

レイクリフとジルベールの視線がぶつかる、どちらも譲らない。


「マーガレットは僕が連れ帰るので、殿下は王太后様を、将軍は犯人を頼むよ。」

様子を見ていたギリアンが、二人に声をかける。

レイクリフもジルベールも、ギリアンに言われれば仕方ない、ああ、と頷いて立ち上がった。




夜も更けた時間にレイクリフはグラント公爵邸を訪れた。

「公爵、大変申し訳ない、姫を危険な目にあわせた。」

レイクリフがマーガレットの父、グラント公爵に謝意を告げ、現状を説明する。

「ギリアンから聞いておるので、問題ない。」

はは、と公爵は笑いながら、マーガレットの事は心配してないと言う。


「最初は姫が飛び出して、爆弾を持った女と対峙したのではと心配で仕方ありませんでした。」

レイクリフがマーガレットの行動力を想像して言うと、公爵が首を振る。ギリアンはソファーに座って静かに聞いている。

「娘は子供の頃、賊に襲われたことがあった。腕に自信のある娘は飛び出したのだよ。

だが、剣技と実戦は違う、人を斬るなどできなかった。そして、娘の護衛が、娘を(かば)って亡くなったのだ。

それから、娘は守られる事も必要と知ったよ。」


コンコンコン、公爵の書斎にマーガレットが訪れた。

「お父様、お呼びと聞きましたが。」

部屋に入ったマーガレットは、レイクリフの顔を見て、やはりと思う。


「マギー、ケガはないか?」

やっと話しかけれたレイクリフは一番気になる事を聞いた。

レイクリフは、王宮からの帰りなのだろう、軍服のままである。

「ええ、大丈夫ですわ。ご心配くださり、ありがとうございます。」

「マギー。」

「なんでしょう、公爵様。」

「マギー、俺が浅はかだったよ、悪かった。」

「公爵様の愛人は何人いらっしゃるのかしら?

順番に私は狙われるのかしら?」

「マギー。」

この最低男はここで叩きのめしてやる、マーガレットはイヤミたっぷりに言う。今のはストレートが入ったな、ぐらい思っている。


「正直に言うよ。

1年以上前だ、夜会で誘われて何度か関係を持った。

遊びで誘われたと思っていたし、そういう事もお互い納得の上での事だった。

勝手だとは分かっているが・・・・、ああいう場で男を誘って直ぐに関係する女性を妻にと考えたこともない。

だが、父親の伯爵から婚姻の申し込みがあって驚いたよ。はめられたとさえ思ったが、断った。

それから、彼女には近づかないようにしたが、彼女の方はすっかりその気で、あちらこちらで吹聴していたようだった。

俺もわざわざ訂正してまわるのもバカらしいので、放っておいた。世間では愛人だと言われているが、そんなものではない。

彼女がどう思っていようが、気にしようともしなかった、興味もなかった。」

淡々と話すレイクリフは、本当に彼女に興味がないようだった。


「だが、マギーが襲われたと聞いた時は心臓を掴まれたようだった。今は彼女に憎しみを持っているよ。

こんなことで破談なんてしないからな、早く式を挙げたい。」

ガシッとマーガレットの両手を握ってくるレイクリフ。

どうして、こうなった?

レイクリフの懺悔ではなかったのか?


横目で兄と父を見ても、助けてくれそうにない、結婚は避けれないようだ。

じゃ、自分で好きにしていいよね、言葉で責めるか、腕力でいくか。いや、コイツは苛められて喜ぶヤツだった。

打つ手がない?



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