マーガレットという公爵令嬢
元気な女の子を書きたいと思って、始めました。
楽しく読んでくださると、嬉しいです。
グラント公爵家の書斎では、作戦会議が行われていた。
メンバーはグラント公爵と嫡男ギリアン。
「マギーのアレは、お転婆という域を出ています。」
「うむ、心配で嫁にもやれん。」
そこにある報告書は、グラント公爵令嬢マーガレットの護衛からのものだった。
昨日、街にお忍びで出かけたマーガレットは、男達のケンカに首を突っ込み、両方をのしてしまったのだ。
護身にと習わせた武術に才能があったらしく、剣も体技も教師を超えてしまった。
表向きは深窓の公爵令嬢、こっそり町に出ては町娘の姿で暴れている。
「僕でもマギーには勝てません。」
ギリアンが溜息をつきながら言う。
「マギーより強い男は少ないでしょう、そのうち独身となると・・」
ギリアンが言い淀んだ言葉を公爵が言う。
「南方部隊将軍、レイクリフ・ワーグナー公爵。」
「無理です!
マギーは勝気だけど、乙女チックなんです。あの男は無理です。」
ギリアンは父親に無謀だと言いながら、思い付いた。
「父上、港ですね。」
「それもある、ワーグナー公爵領は港を持っている。
グラント領で生産されるワインや肉加工品を輸出するのに欲しいな。」
「向こうは、うちの金山が欲しいと言いますよ。物々交換はしません。」
「ギリアン、物々交換ではない、契約だ。その為にマギーを嫁に行かせる。」
「父上、その案は3日も持ちませんよ。
乙女なマギーには、女好きのレイクリフは問題外です。
レイクリフには、マギーの被っている令嬢の皮は直ぐにバレますよ。
あんな節操のない女好きの男はマギーが不幸になるに決まってます、僕だって、イヤですよ。」
元々、お互いの家は昔から仲が良くないでしょう、とギリアンが付け足す。
公爵は、ギリアンの前に書類を置いた。王からの書簡だ。
マーガレットは、父親の書斎で、父と兄に囲まれ説明を受けていた。
「何ですって!」
絶対同意しないと意思表示しながら、マーガレットが声を上げる。
「僕も反対だ。」
兄のギリアンもマーガレットに賛成だ。
「だが、王からマーガレットをワーグナー公爵家に嫁がせるように言われた。これが親書だ。」
グラント公爵家とワーグナー公爵家は国の中枢を担う立場でありながら、あまり関係が良くない。
隣国が不穏な動きをしていることもあり、国内強化に王が動き出したのだ。
「ワーグナー公爵って、女性に節操がないって有名な男じゃない!
そんな男なんて願い下げよ。
貴族であろうが、町娘であろうが、来る者拒まず。」
絶対にイヤ、と言い張るマーガレット。
娘が不幸になるとわかっていて、政略結婚させる父親ではないのがグラント公爵だ。
マーガレットは、翌日、軍指令部を訪ねた。もちろんワーグナー公爵に会うためだ。
「申し訳ありません、お忙しいところを。
どうしてもお話しすることがあって。」
表向き令嬢の仮面を被りながら、マーガレットがレイクリフに挨拶をする。
「大丈夫です。こちらから伺うべきところを申し訳ありません。」
マーガレットに椅子を勧めながらレイクリフが書類を読む手を休め、マーガレットを見る目は品定めをしているように冷たい。
マーガレットは、部屋に副官が控えているのを見て安心すると話を切り出した。こんな女好きと二人きりで部屋にいるわけにいかない。
「この度の事は、大変申し訳ありませんがご辞退したく、父も王に返答しております。」
「それは無理でしょう。王の親書が来た時点で我々は婚約者も同然。
貴女は、隣国王家に嫁ぐか、俺に嫁ぐかどちらかしかない。」
マーガレットは、肩を落として、やはりなぁと思う。
「私では、とてもワーグナー公爵家にふさわしくありませんわ。」
楚々とした雰囲気を出して、マーガレットが答える。
「グラント公爵令嬢である貴女ならば、どこにでも嫁げましょう。
公爵が大事にしていて、外に出さない手中の珠、麗しき姫。
噂通りに、たいそう美しい。」
レイクリフの言葉にマーガレットに鳥肌が立つ。
「ところで、侍女も連れずにお一人で来られたのか?」
父も兄も、マーガレットの性格がわかっていて隠している。
噂は一人歩きし、美貌の公爵夫人によく似た内向的な公爵令嬢となっている。
「家人には内密で参りました。
父にも兄にも止められますから。」
うつむいて言うマーガレットは儚げで美しい。
見た目と違って、お忍びで家を出るのは得意だ。護衛がこっそり付いてくるのはわかっている。
沸点の低いマーガレットは、貴族との付き合いは少なくしている。限られたお茶会ぐらいで、夜会にも出かけない。出かけるのは街ばかりだ。
「護衛は扉の所まで、付いてきているようだが、もしここで何かあったら間に合わないだろう。
お一人で行動するのは危険ですね、ご自分の美しさをわかっていない。」
レイクリフがニヤリとするのを見て、マーガレットは鳥肌を通り越して寒イボが出てきた、嫌いなタイプだ。
うわぁ、気持ち悪い、女なら何でもいいんだなコイツ、と思いながらマーガレットも気弱な振りをする。
「将軍には、たくさんの愛人がいらっしゃるとお聞きしました。私にはとても、それを取り仕切る能力はありませんわ。」
「大丈夫です、王にも言われてますから。
マーガレット姫と結婚するまでに、全部きれいにしますから。
愛人と言える程の者などいませんよ。」
出された紅茶のカップを持つマーガレットの手が震える。
ダメだ、耐えきれない、女を遊びとしか思っていない。
手が勝手に動いていた。
ガッシャーン!!!
レイクリフを僅かにそれたカップが壁に叩きつけられ派手に割れた。
「よくも避けたな!最低野郎!!」
カップをギリギリ避けたレイクリフも、全てを見ていた副官も目を大きく見開いている。
割れた音で飛び込んできたマーガレットの護衛が、マーガレットを後ろから羽交い締めにして止めている。
「姫様、落ち着いてください!」
「この最低男を叩きのめしてやる!」
マーガレットが言った時には、護衛は肘鉄をくわされ、緩んだ拘束からマーガレットは飛び出して、レイクリフに殴りかかっていた。




