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第八杯

 ダンジョンを探索してている内に冷静になったことで分かった事があった。結論としてはスライムは切っても分離して数を増やすだけで効果はないが、炎であれば殺すことが出来るという事が分かった。つまりスライムの弱点は炎だ。


(これは大きな成果だぞ。RPGとかではわからない、実戦でしかわからない事だ。よぉしッ!)


剣を腰へ戻し、革袋の中からもう一本松明を引っ張りだす。そして一本目の松明の火をもとに着火する。両方の手に松明を握り、スライムを追う。

先程散会したうちの一匹はすぐ傍にいた。後ろからゆっくりと忍び寄り、炎が消えてしまわないようにゆっくりと松明を近づけスライムに火をつける。スライムは突然自分の体に火がついている事に気がつき、もがきまわるも、すぐに絶命した。二匹目は天井に張り付いていた。暗闇にも慣れてきたこともあり、思いのほか容易に確認が出来た。こちらは炎を見えているのか、天井からぽてっと落ちると、ぴょんぴょんと兎のように跳ねて暗闇に消えていった。しかしタカシもそれを逃がさない。二本の松明を片手にまとめて持ち、空いた手で剣を引き抜き、逃げるスライム目掛けて一刀振り下ろす。そしてその振り下ろされた刃はスライムを両断する。先程同様動かなくなった両断され分裂したスライムに火を灯し燃やしていく。

これで計三体、分離した分を含めると計五体のスライムを倒したことになる。


「分離するとか言われてなかったし、これでスライムは五体でいいだろ。多分」


とスライムの討伐数を勝手に自己解釈で完了したタカシは、次のフレアスライムの捜索に向かうのであった。

スライムの形状と特性は大体把握した。ならフレアスライムも同じスライム。ならやることは一緒だ。

 結局その後第二階層をくまなく探索したのだが、出てくるのはスライムばかりで、フレアスライムという色違いのスライムには出くわすことはなかった。


(それにしてもスライム以外のモンスターに出くわさないな……最初のチュートリアル的なダンジョンだからスライムだけなのか?とりあえず第三階層へ降りてみよう)


タカシは第三階層に足を進める。スライムを五匹倒した事で自信がでたのか、足取りは軽い。


「にしても全然いないな……スライムは何体か見かけるんだが……」


 フレアスライムというのはスライムに比べて警戒心が強いのか、全然ダンジョン内を探索していても出くわさない。同じスライムなのにこんなに違うのか、とそんなことを思い浮かべて足早に探索していると、ふとタカシが持つ二本の松明以外の三つ目の光源がうっすらと前方の暗闇の中から覗いている事に気がついた。


「あの光はなんだ?」


松明を背に前方の謎の光源の正体を確認しようとじりじりと迫る。

それは青い炎であった。しかもとても淡い。たとえるならチョウチンアンコウが深海で触覚から放つ小さな光ぐらいのものである。


「あれがフレアスライムか?」


  両手の松明を日本片手にまとめて、空いた手で再度剣を引き抜く。

それは水色のゲル状の塊であった。しかし違う点と言えば頭頂部に青い炎を宿している事であった。


「ただ、松明の炎が効くのか?」


炎を宿した敵に炎が有効なわけがない。逆にパワーアップとかしてしまうんではなかろうかという疑心にかられる。


(だとすればどうする?)


ピクリッとフレアスライムがこちらを向いた。

その動きに思わずタカシは構える。かといって目があるというわけではないので視覚情報を所得してうごいているのかがそもそもわからない。


「ッ!?」


先に動いたのはフレアスライムであった。ぴょんぴょんと飛び跳ねると、タカシ目掛けて飛び込んできた。

それをタカシは寸でかわす。しかしフレアスライムの狙いはタカシではなかった。咄嗟に動いた事で松明の炎が大きく揺らめいた。そのっ揺らめいた炎を空中でジェル状の体が口のような窪みを作り、体内に炎を吸い込んだ。


「炎を……食べた?」


 幸いにも松明の炎は消えていない。ここで光源を失えば、第三階層とはいえ脱出することは困難に等しい。フレアスライムのほうを見ると頭頂部の灯の大きさが僅かに大きくなっている。

このフレアスライム、捕食器官を有しているようだ。自身の特性炎を捕食し自らの力を大きくしていくタイプだとタカシは判断した。

やはりスライムといえど強い。ゲームとは違う。現実は相手も必死だ。戦い互いのどちらかが命を落とすまで戦いは終わらない。それが自然の摂理だ。スライムも生きるために必死なのだ。


「だがそれは俺だって変わらないッ!負けられないんだッ!」


炎を食べ、強化されていくと分かったのならもう二本も松明はいらない。一本の松明を地面におとしす。その残火をフレアスライムは見逃さない。消えかけの炎を求め飛び込んでくる。


「でやぁッ!」


そのまま横凪ぎに片手剣を振りぬく。その剣は空中でフレアスライムの頭頂部の炎をかすめた。しかし本体には僅かに上すぎて届かない。


「なら、これで、どうだッ!」


そのまま剣を振り切り地面に差し、剣を軸に着地を狙った蹴りがフレアスライムを捕える。

そのまま勢いを殺しきれず、衝撃をそのままにフレアスライムは吹っ飛び、壁面にぶつかる。


「ハァ……ハァ……元サッカー部(中学の時のみの万年補欠)なめんなッ!あ、腰が……いてて。ッてか燃えてるしあっちち」


シュウッ……っと鎮火音が鳴り、フレアスライムの頭頂部の炎が消えた。それを確認し、タカシはゆっくりと歩みると剣を突き刺す。僅かにビクンッと痙攣した後、暫くすると動かなくなったのを確認し剣を引き抜いた。


「ふう……苦戦したぁ……強かったよお前」


と言い残し、次のフレアスライムを探しに行こうとした時だった。

強い熱源を背中越しに感じる。振り返ると、先程剣を突き刺した傷口からあふれんばかりの炎があふれていた。そしてその炎は収束したかと思うとタカシ目掛けて襲い掛かってきた。


「クッソッ」


避けようにも咄嗟の事で避けきれない。炎の煽りをもろに受ける。


「うわッ!?」


熱源の直撃で顔は庇えたもののわずかに二の腕を焦がされ、その拍子に松明を落としてしまった。燃えた衣服を鎮火しようと転げまわる。しかし中々炎を鎮火する事ができない。


「くそくそくそぉッ!!」


と必死にのたうち回りながら火がついた衣服を引きちぎりどうにか脱ぐ事に成功する。


「……はぁ、はぁ、ッ!?あっぶねぇ。なんだよ、あれ」


そこにいたのはタカシが知っているフレアスライムではなかった。タカシが先程落とした炎をバクバクと捕食し登頂部から火山の噴火の如く業火をまき散らしている姿であった。一瞬にして業火は収束し、人型に変化する。形容しがたい形相でゆらりとタカシに迫る。その禍々しい姿を前にタカシは身動きひとつとる事が出来なかった。


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