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第七杯

 ダンジョンは古代文明の遺跡の様な外観をしていた。エルフの樹海にはいってすぐの所に分かりやすく看板がたっていて『えるふの森のダンジョン』と書かれている。故に見つけるのは容易であった。


「危機とか大げさな事抜かしていた癖に全然ダンジョンに危機もってないじゃんこれ」


と看板を横目にダンジョンの入口へ足を進める。ダンジョンを探索する前に改めて依頼を確認する。


「スライム五体とフレアスライム五体の討伐っと」


 そもそも依頼書ではなく口頭で伝えられたので、漠然とスライムと言われても某RPGに出てくる丸っこい目をしたかわいらしいシルエットしか出てこないので、不思議とすぐ攻略できそうな気がしてくる。フレアスライムに至ってもシルエットがスライム同様で、ただ赤いだけだろうとぼんやりではあるが想像できる。


「よしいけるッ!」


 そう自分を鼓舞し、松明に火をつけ、反対側の腕には片手剣を装備し、ダンジョンの入口に入った。

中は遺跡の名残を残しつつも、かなり年季が入っているため、何かが彫られていたことがわかる程度でそのほとんどが風化し、崩れてしまっている。更にその上に大量の苔がびっしりと埋め尽くしている。

おまけにじめじめと湿気がすごく、水滴が天井の所々からぽたぽたと地面に落ち、ダンジョン内に水滴音が木霊する。蝙蝠の住処になってそうな場所だと思いながら、タカシは恐る恐るダンジョン内を足早に進めた。


「しっかし最初のダンジョンにしては雰囲気あるなぁ……なんかゴーレムとかでそうなんですけど」


 そんなことを言いながらダンジョン内を探索したタカシだったが、モンスターらしき生き物とは全くと言っていい程遭遇しなかった。精々ネズミやムカデの様な現代日本でであったら驚く程度のものである。

無論異世界では大したことないのだが、現代日本でゆとり世代として育ってきたたかしとしては、やはりネズミやムカデ類はあまり目にすることがないようで、洞窟内で上から落ちてきた虫やネズミには四苦八苦させられた。しかしこの程度で驚いていては実際のモンスターと遭遇した時、対処できないことくらいタカシにも理解できる。

 故にこの第一階層中を探索して、虫やネズミ類には少しばかり耐性をつけた。最も短時間でのものなので、完全に平気になったわけではなかったが、幾分か探索開始当初よりはましだ。そうこうしているうちに第二階層へ続く階段を見つけた。


「……よっしゃ、次にいこう」


 少々疲弊してはいるがまだまだいける。そもそも戦闘があったとかそういうわけではなかったが、現代っ子のタカシからした虫の類に慣れるまでがもはや戦いであったのは言うまでもない。

恐る恐るへっぴり腰気味に階段をゆっくりと降りてゆく。第二階層へ突入し、第一階層に比べ、閉鎖的な空間の様に感じる。最もここから外界とは無縁の世界になる。雰囲気も一回層の廃墟のようなものとは異なり、洞窟といった感じだ。


「さぁ……ここからが本番だ。お前なら出来るッ!」


 自身を鼓舞し、探索を再開する。二階層は恐ろしく静かであった。

タカシは警戒を強める。片手剣を再度握りなおす。緊張からか汗が頬を伝う。

しかしタカシは不思議と恐怖はしていなかった。夢にまで描いていた冒険とは、探索とはこういった緊迫感の中にあってこそのものだと昔から考えており、そして今現在それを噛みしめながらダンジョンにいるのだから。

 似たような感覚でいえば少し遡るがエルフの森に火を放った時もそうであった。緊張で体が強張った。もしかしたら自分のせいでこの森が大火事になって、ここに住むエルフを殺してしまうかもしれない。もしかしたら自分を助けてくれたアリシアの事も。常識的に考えればあり得ないことだ。他者の生活を根こそぎ奪う可能性すらあるのだから。

 しかしそうまでしてもタカシは先に進みたいと考えた。現実では手に入れることが出来なかったものを探しに異世界に二度目の生をうけ降り立ったのだから。目的など今のたかしにはわからない。けれどたかしは今確かに、逃げ続けてきた現実と向き合おうとしていた。最も二度目の人生ではあるが。しかし生前はつかめなかったものを異世界では見つけられるように、そんな思いがタカシを常識という枷から解き放ったのだ。

 それがサイコパスだろうと構わない。倫理がなんだ、常識がなんだ。一度死んでいるのなら、好きにしてみよう、と。だからこそ今タカシはここにいる。

冒険者として最初の試練を乗り越えようと、必死に抗おうとしているのだ。


「これぐらい出来なくて何が冒険者だッ!」


そんな事をぼやいていると、一瞬松明の光が動く影を捕えた。


「ッ!?」


 炎を揺らし、松明を持った手を掲げ、一周する。すると丸い緑色の液状のゲルの塊が三つ固まっていた。それは松明の明りに反応し、もぞもぞと動いている。


「ビ、ビンゴだ」


 剣を握る手に力がこもる。何せ剣を振るうのは初めてなのだ。おまけにモンスターといえど生き物相手に。


「あぁぁぁぁぁぁああッ!」


 掛け声と共にスライム目掛けて剣を振りかぶる。しかし相手もただ黙って斬られるわけがない。三体のスライムは、その掛け声に驚き、その場を散会する。


「くそッ!待てッ!」


 最も待てと言われて待つわけもなく、スライムは兎のようにぴょんぴょんと跳ねる。逃げる速度はそんなに早くはないのだが、切りかかったタイミングで避けられると差が開いてしまうため、安易に切りかかれない。


「クッソッ!」


上手くいかないことにもどかしさを感じ悪態をつきながらタカシは必死にスライムの後を追った。


「テヤァッ!」


 スライムが飛び跳ねたタイミングを叩き落しす形で切りつけた。スライムは真っ二つに切断され、力なく地面に落ちた。


「ハァ……ハァ……や、やった」


 確かな感触に確実な手ごたえを感じる。それと同時に手が震える。モンスターとはいえ意図的に生き物を刃物を使ってはじめて殺したのだ。


「いいや、いいんだ。これが当たり前なんだ」


と自分をなだめる。そして次のスライムを追おうとした時だった。先程まで動かなかった分断されたスラ

イムが二つ、タカシ目掛けて襲い掛かってきた。


「ッ!?しまッ……」


 咄嗟の事で判断が遅れる。思わず松明を前に出し身を庇い、目を背けた。

ジュッと音と共にスライムの破片が顔に飛び散った。しかしその後なんの攻撃も来ない。

目をあけると体に火をつけたスライムが二匹飛び跳ねている。火を消そうと体を壁に擦り

つけたり、転がったりしているが火は意外にも消えない。やがてスライムは溶けて動かなくなった。


「一体何が……」


一体何が起こったのか。勝手に火に突っ込んで燃えてスライムが死んだという事なのだろうか。

疑問を残しながらもタカシはダンジョンの探索を続けるのであった。


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