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第五杯

 たかしの名前はタカシ・ボルフシュテンになったのであった。もう今更色々いったところで何もかも遅いので、諦めて早く冒険の旅に出ようと意外に前向きなタカシなのであった。


「んじゃ、自分は森の外へ行きます。色々ありがとうございました」


と部屋を後にしようとすると、長老に肩を掴まれる。


「え、待って待って。そんな簡単に旅立てると思ってるの?てか君のせいでうちの孫のアリシアちゃんが

軟禁状なのに、普通に無視してくの?助けに行って一緒に冒険に連れてくとかいうイベントすっ飛ばしちゃうの?てかさっきまでアリシアを自分の都合に巻き込めないとかいって大声で叫んでたじゃんッ!運命に抗う主人公感ちょっとだしてたじゃん。どうしたあの頃のタカシッ、かえってこいあの頃のタカシッ!それにまだ里の危機救ってもらってないから。出たければエルフの里にあるダンジョンを攻略して里のエルフに感謝されながら円満に出て行って、一人前になったタカシの旅立ちに立ち会う長老感だしたいじゃん。わしが育てた感だしたいじゃん。頼むぜほんとよぉ」


「え、めっちゃゆうやん。てかこの里の危機を救うとかって今初めて聞いたよッ!てかエルフの隠れ里にあるダンジョンてなんだよッ!そんなんあったら絶対外部から見つかるじゃん!隠れ里になってないじゃん。今頃外部の冒険者だらけだわ!」


「あぁもう細かい事気にするなよたかし。とりあえずさぁ……アリシアちゃんかわいそうだから助けにいってあげなよ。そんなんだから童貞なんだよ?分かる?」


と滅茶苦茶いってくるめんどくさい長老に若干イラつきつつも、言ってること自体は確かに間違っていないので、渋々従うことにした。

 確かに王道パターンではあるし、何よりヒロイン的ポジションのアリシアを助けるイベントを飛ばすのは好ましくない。

 正直最初は助けに行くつもりであった。ただ長老が同じ転生者だった事と、その濃いキャラクターのインパクトにやられてすっかりアリシアの存在が頭から消えていたのだ。


「とりあえずアリシアさんを助けにいくのはわかったけど、エルフの里のダンジョンにはいって俺は何をすればいいんです?」


「フォッフォッフォ。うむ。では依頼の内容の説明といこうかのぉ」


「いやもう今更長老感出されてもうざいんで……普通にしゃべってください」


「あ、そう。んじゃスライム五匹とフレアスライム五匹の討伐。これクリアできないとこの世界じゃやっていけないから。俺、テクノブレイクして死んだ癖して、ちょっと高校デビューならぬ異世界デビューして強気になってるたかしの図々しい性格結構好きだからさ。頑張ってほしいわ」


「おい。マジでそろそろキレんぞッ!このやろー」


「ハイハイ。んじゃ行ってらっしゃい。あと……」


とたかしが去ろうとしたときおもむろに老エルフが鍵を投げてよこす。


「それアリシアちゃんが閉じ込められてる部屋の鍵ね、うまくやれよー」


「たく、何が軟禁だ。監禁じゃねぇか。分かりました。アリシアちゃん救ってからダンジョン行きます」


「はいよ。頑張って」


こうしてたかしは長老の元を後にして、アリシアの元へ向かったのであった。



早速アリシアが監禁されているだろうツリーハウスの前に来たのだが、見張りが多い。数にして5人。周りに何か所か松明が燃えていて、光源が多く、これ以上前に出ると見つかってしまうため、少し遠くの林から覗いているというなんとも情けない状態なたかしである。

 大木の上に建てられたツリーハウスにアリシアがいることは掴んでいるのだが、あの見張りを掻い潜ってアリシアを救出するのは困難だろう。

 タカシの戦力では五人にボコボコにされるのが容易にわかる。脳内ではタカシが無双して五人全員を圧倒してアリシアを颯爽と助け、アリシアがタカシにベタ惚れする所までは想像できているのだが、所詮童貞の妄想である。

現実はそんなに甘くはないのだ。というわけでどうやってアリシアを助ければいいか、ひたすらに考える。


(どうする。ここまで来て助けないってのはさすがに恥ずかしいぞ。それにアリシアさんは忘れてたけど俺をかばって監禁されているんだ、そうだ。その思いを無駄には出来ない。

だがどうする。五人相手ではボコられて最悪次の日にはさらし首だ。てか長老がエルフ達に全部説明して、誤解を解いてくれてればこんなことなってなくねッ!?なのにわざわざこんな命張ってやることかなぁ。滅茶滅茶手間やん。さてさっきから自問自答しかしてないけどどうする。考えろ。考えるんだ。タカシ・ボルフシュテンッ!姓だけはかっこいいタカシ・ボルフシュテンッ!……ん~……ッ!あれは、使えるッ!)



「ん……なんか臭くね?」


見張りのエルフの一人がふと呟く。


「誰か焼き芋でもしてるんだろ。いつものことだ」


と呑気な見張りエルフその2。


「いやこの時間に?やべぇやつじゃん」


「違いない。ん?あ、あれはぁッ!?」


と見張りエルフ二が指をさす方向の林が燃えていた。轟々と唸りをあげ燃えていた。


「やばいじゃんッ!消火!消火!急げッ!」

「たく、こんな時にッ……急げッ!」


と大騒ぎになった見張りのエルフ達は一気に辺りに散った。

 それを見越したかのように火を放った本人、タカシが近くの林から姿を現す。松明が長老からもらったスターターキットの中に入っている事を覚えていた。故に辺りに点々と設置されている松明から火を拝借して、林に火を放ったのだ。最もすぐに消火に向かった様なのでそんな大火事にはならないと信じたい。


(どうやらうまくいったみたいだな。まぁ流石に火を放つとかやばい奴でしかもはやないけど、こうでもしないと無理だし、仕方ないね)


とサイコパス気味に森に火を放ったことを正当化しつつ、ツリーハウスに向かって螺旋状に掛かる階段を登る。


「はぁッ……はぁッ……」


 ただひとつ問題が。このツリーハウスが建てられている大木が思いのほか幹が太く、幹に沿って作られた螺旋階段はかなり上まで距離があるうえ、引きこもりだったタカシにとってこの階段を登りきるのは中々に至難の業であった。

 体力的にまだ階段の中盤にしてもう息がかなり上がってしまっている。そんなことをしているうちに先程まで目立つように燃えていた炎が鎮火したようである。


「ハァッ……ハァッ……まず、い。いそ、いそがないと」


と自身の全力を振り絞り、どうにか階段を登りきる。そしてツリーハウスのドアにカギを差し込み、ドアを思い切り開いた。


「ア、アリ、アリシアさんッ!」


「んッ?」


 そこにはアリシアと先程タカシを捕縛した女性エルフがチェスを指していた。この世界にチェスがあるのかとかそんな突っ込みよりも、手足を縛られて拘束されているものばかりだと思っていたためタカシは思わず拍子抜けしてしまった。


「……」


「あ、どうもタカシ……さん?」


困った顔をしたアリシアが、戸惑いながら、苦笑いを浮かべていた。

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