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第四杯

一室に残る二人の間には沈黙だけが支配していた。静寂を断ち切るようにおもむろに長老が立ちあがる。そして背中から何かを抜きながらたかしに近づいてくる。


「えっ……待って待ってまってぇぇぇぇッ!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……え?」


と殺されるかと思い込み、男ならざる声を上げたたかしをものともせず、長老はたかしの手足を拘束している拘束具を外す。

 そしてゆったりと元の定位置へ戻り座りなおす。まじまじとたかしを見つめたのちに、重い口を開いた。


「おぬし、先程の言葉誠か?」


「はひッ?」


「誠かと聞いておるのだ」


「はいッマジです。現代日本から転生してきました、大沢たかしと申しますっ!死因はテクノブレイクです!気がついたら幼女な自称天使に勝手にこの地に誘われました!はい!」

とやけくそ気味に返答する。老エルフは暫く黙ったままだった。そしてまたゆっくりと口を開いた。


「え……お前もなん?」


「……ん?」


聞き違えたかと思い思わず聞き直してしまった。

それ程に先程までの長老らしい覇気がない。

渋い声で随分と抜けた事をいう長老に驚きを隠せない。

それに彼は〝お前も〟と言った。確かにいった。


「え……どうゆうことですかね?」


「いやぁ、実はわしっ、じゃなかった俺もなんだよねぇ……メルシィちゃんだっけ確か」


「……すみません。全然話が読めないんですけど」


「いやだからさ俺も転生者なんだよねぇ……」


 突然若者らしい喋り方になった長老からは先程までの長老感が全くない。


「まぁあの国って過労死転生結構多いからさぁ……たしかメルシィちゃん達のとこって過酷な現実送った人とか、死んでも死にきれない恥ずかしい思いして死んだ人たちが対象でしょ?コンセプトにピッタリなんだよな日本て。ちなみに俺もSEしてて気がついたら、死にかけの老エルフに転生してたってわけなんだよねぇ……確かに仕事とは無縁の残りの余生をゆったりと過ごす老人の様な生活おくりたいっていったけどさぁ、まさか老エルフかよって最初は驚いたもんだけど、今じゃこれも悪くないわっておもうようになったわぁ」


「いやぁ……そうだったんですね。てかここを始まりの村に設定するあたり、あの天使ほんとに意地が悪い」


たかしの言葉に長老は微笑を浮かべる。


「違いない。この里のエルフ達は外部の者を嫌うからな。もちろんそうじゃないエルフも森の外部にはいっぱいいるらしい。なんならここのエルフ達のほうが珍しいくらいみたいだな」

確かに先程の反応を見るに外部の人間に恐怖と好奇心の入り混じった視線を感じた。恐らく過去に何かしら因縁があるのだろうが、たかしの知った事ではない。


「あの、長老は森の外には出たことが?」


「いんや……俺もな、年寄りになってみて思ったんだけど体中が少し動いただけで軋むのを感じるんだよね、まぁこの爺さん何百年も生きてるみたいだから当たり前っちゃ当たり前なんだろうけどな。だから冒険どころじゃないってのはある。いやはや困ったもんだ。それに俺はこの世界にくる転生者に、この世界の初期設定とか、目的とか、冒険のスターターキットを渡して冒険に誘う義務があるからな。最初に転生したばかりの頃メルシィちゃんからスマホにそういうメールが来たんだよたしか」

その言葉にたかしは耳を疑う。


「え、スマホって使えるんすか?この世界ッ!?」


たかしの反応に長老は得意げに笑った。


「ばっかお前。最近の異世界は大概スマホだのパソコンだの使えんだよ。最近の創作物にありがちなやつ。世界観壊すから機械類の使用は違うだのいう輩はいるし、俺もその口の人間だったんだけどな、実際いざ自分が転生したらくそ便利すぎて、ネットで調べた知識をひけらかして今じゃこの里一の知識人だわ」


「まぁ裏ではネットで調べてるんですけどね」


「違いない。あ、んですっかり忘れてたわ。この世界は魔王に支配されてそうになってるらしくてなぁ……各地に冒険者ギルドが設置されていて、冒険者はそこに登録してもらうことで仕事を請け負うことが出来る。主に魔王が造ったと思われるダンジョン攻略、もとい魔物狩りに精を出してるわなぁ……まぁRPGとハンティングアクションゲームを混ぜたものだと思えばいい。最もゲームと違ってセーブポイントとかないし、普通に死ぬけどな。あと人によってスキルとかがあったりするんだけど、そこらへんなんかメルシィちゃんいってた?」


と長老は懐から取り出したカンペをおもむろに取り出して、適当にこの世界の説明をつらつらと読み上げる。


「いえ特に説明はなかったですね。あ、でもアンケートみたいなのは取られました。好きな食べ物とかコンプレックスとか、これ聞いて意味あるみたいな質問がやたら多かった気がするような……」


「そうか……」


長老は少し思い当たる節があるような表情で、神妙な面持ちをして、重い口を開いた。


「お前、メルシィちゃんになんかいった?」


「なんかとは?」


 たかしが頭の上に?を浮かべている姿をみて「ならいいんだ」と流し、部屋の奥へと入っていった。

そして戻ってきた長老から革袋を受け取る。中には一式の初期装備とナイフ、片手剣、銀でできた平たいペンダント、五本の松明、そして干し肉などの長期保存食と少しのお金が入っていた。


「ありがとうございます」


「まぁこれがこの世界での俺の役割だしな。ちょっとペンダントつけてみろ。今の自身のステータスが分かる」


と長老に促され、革袋の中からペンダントを取り出し、首からかける。

するとペンダントに淡い光が灯ったかと思うと、その光は収束し文字になってペンダントに綴られた。


名前 名前を記入してください。十七歳(童貞) オス

レベル 1レベル(あのさぁ……もうちょっとさぁ、がんばれよ)

職業  一般人 (量産型なんだよなぁ……はぁ……)

スキル なし  (頑張りけり候)


「え、なにこれ。滅茶苦茶煽ってくるじゃん」


「まぁ、煽ることでこの世界で頑張ろうって思えるところに期待しているんだろう。きっと。あと名前を入力して。じゃないとこの世界で名前を入力してくださいさんて呼ばれることになるから」


「たかし、と」


「本名まんまかぁ……まぁ捻りないのも嫌いじゃないけど。そうだ、エルフに昔伝わってたらしい姓をあげるわ」


「あ、ちょっと」


と長老がたかしからペンダントを取り上げたかと思うと、勝手に入力して、ぽいっとペンダントを投げてよこした。


「ちょっと……もう滅茶苦茶っすよ。たくっ……ん?」


ペンダントの名前の覧に〝タカシ・ボルフシュテン〟と綴られていた。


「ちょっとッ!これダサすぎじゃないですかッ!?これどうしてくれんですかッ!たくッどうやったら名前直せます?」


「もう決定しちゃったから直せないわ。ミスターボルフシュテン・タカシ」

という事でたかし改め〝タカシ・ボルフシュテン〟として生きていくことになったのであった。


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