2 出逢いがあるのが旅
きゃぴ
割れ目を飛び越えた先には『宮殿』。
まる分かりのtheファンタジー。まさか人類の敵とまで言われたこの三人が勇者?異世界へとたどり着いた三人は同時にそんなありえない妄想をした。
いや、なれるわけないじゃん、勇者。
「ふむ、私たちは不法侵入者・・・らしいな」
そう、勝手に入ってもらっちゃ困るよ、の人たちである。今の三人には世界、宮殿、二つの不法侵入容疑がかけられている。というか、今捕まれば現行犯。
「この建物ごと吹き飛ばすか?」
バカかてめぇは。
迷ったら潰す。その思考が抜けきっていない最強の能力者。
「オリジン、飛べそうか?」
「ん?うむ、飛べるぞ。この世界のことは調べ終わったからな」
仕事が早い。
そして、器用。三人をまとめて転移させる。それも、地球よりも遥かに広いこの星で、三人の立ち位置を変えることなく転移をするオリジンさんマジやばい。
オリジンたちはひとまず、一番弱い魔物がいる地点へと旅立った。理由は特にない。強いて挙げるならば、ドラ○エとか、ポケ○ンとかって、初めは弱い敵とあたるでしょ?そんな感じ。
転移した先は見事な草原。チラホラと見かけるのはあの流線型のプルプルと体を震わす魔物だ。癒される。
「あれがスライムか・・・」
「うむ、立派だな」
「凄いではないか。奴らよりも貫禄がある」
堂々とそこにあり、最強の三人を見つめ続けている。未だかつて、最強の三人を間近で見て、凛とした態度を崩さぬものはいなかった。
しかしこのスライムは・・・!圧倒的強者、世界最強と謳われた彼らを前にこんなにも堂々としていられるなんて・・・!
「ダメだ・・・俺はこいつを殺せねェ・・・お前らがやつを殺すというのなら、俺は喜んで敵となる」
「安心しろリセット。やつに心を惹かれたのは貴様だけではあるまい。余もともに牙を剥こうとも」
スライムは最弱の魔物だ。
それ故に、彼を障害としてみるものなどいない。徒党を組んでも負けてしまう。幾億回負けた。幾億もの同士が光となって消えた。たった一度の勝利も味わったことは無い。
しかし、今日は違う。運のいいスライム。毎日、数え切れないほどのスライムが死んでいく中で、見事生き抜いた。唯一、人間の味方を得た。それが化物だとは知らないだろうが、彼はたしかに仲間を得たのだ。
「・・・いや、頭おかしいぞ」
銃口が、スライムへと向けられた。立派だとは思ったが、敵は敵。オリジンからすれば生きているもの皆敵。認めるまでは全てが敵だ。その冷めた思考に動かされ、銃口は冷たい視線をスライムへと向けた。
これが通常、当たり前だ。なに最弱が夢を見ている。
スライムはその体をぶるりと震わせ、諦めたように項垂れた。この世界に、スライムの味方はいない。
静かな一瞬を経て、細長い弾丸が一発放たれた。
「させんッ!!」
「銃を下ろせ、KY野郎」
弾丸は海パンおとこに阻まれ、ライフルは鎖をもって地面に縫い付けられた。
オリジンは手から離れ、地面と添い寝かましてるおバカさんを別空間にしまい、二人の男を睨みつける。
「本気でそいつを庇う気か?」
二人の化物を睨むオリジンの目は冷めきっている。
いつになくマジな目をしているリセット、キングに現実を見せるべく、冷ややかな視線を送っているわけなのだが・・・・・・
「マジもマジ。こいつは俺が保護する」
「世の宝物庫で飼えば、こやつも成長しやすかろう?」
あまり効果はないみたいだ。
スライムに魅了の力は無い。純粋に、二人がペットにしたいだけだ。
「スライムなんぞどこにでもいるだろう。なぜそいつなんだ?」
試しに別のスライムに向けて銃口を向けたが、そちらには見向きもしない。本当に目の前のスライムがご所望のようだ。スライムの顔なんてどれも同じ気がするが、化物にはなにか通じるものがあるらしい。
再び銃をしまい、オリジンはため息をついた。
「わかったよ。勝手にしろ。ただし、自分たちで育てるのだぞ?」
「お前は俺のかーちャんかよ」
「任せろ。我がこやつを最強のスライムにしてくれる」
リセット、キング、オリジンはスライムを仲間にした。
「こいつ、餌はなんだ?」
「我が宝物をやれば良い」
「雑食だ。ものを与えればなんでも食べる。食べるものによって成長先が変わってくるそうだ。考えて与えろよ」
わかりました、オリジン先生。
「比較的近くに先程の宮殿があった都市がある。まずはかそこに向かうとしよう」
「りョーかい」
「うむ、案内頼む」
キングは歩くのが面倒なのか、別空間にある宝物庫から王の玉座を取り出し、浮遊しているその玉座へと腰掛ける。膝の上にプルプルのスライムを乗っけたショタが、空飛ぶ玉座で移動する姿は異彩を放っている。街でも人気者間違いなしだね!
リセットとオリジンは歩く。キングのような便利能力を持っていないからだ。
三人がしばらく歩くと、次第に大きな都市が見えてきた。
あれが先程オリジンの言っていた宮殿のある都市だろう。
「ァあ?検問か?」
「のようだが・・・どうする、オリジンよ」
門に立つのは騎士の皆さん。
警備がかなり厳重で、一人一人の身分証を確認しているようだ。おかげさまで、門の前には行列が・・・。
「消し飛ばすかァ?」
「やめろばかもの。まぁ私に任せろ。やりようはいくらでもある」
「さすがだオリジン。一家に一台のスグレモノだな」
オリエモン。
数時間門の外で行列を耐えのびると、ようやく三人の番に。ここはDのつくネズミの巣窟かなにかか?後半はひたすらシリトリをやっていた三人。途中からソレはもう言った言わないの地獄だった。
とにかく、三人の順番が回ってきたので、近寄ってきた門番にオリジンが対応する。
本来ここで求められるのは、犯罪歴の確認と身分証の提示だ。
しかし―――
「私とお前は旧知の仲だ。私たちが犯罪を犯すようなバカものでは無いとしっているため、犯罪歴の確認も身分証の提示もする必要が無い。そうだな?」
「・・・・・・はい」
「そうか、それでは入らせてもらうぞ?」
「・・・・・・はい 」
「ンじャ、わりーな兄ちャん」
「失礼する」
「・・・・・・はい」
洗脳、それがオリジンのとった選択。
脳の信号を弄った。オリジン、リセット、キングに関して彼はイエスマンになる。単純な書き換えだが、結構効く。
「さて、どうする?」
「また城行こうぜ」
「意味がなくないか・・・我はこの街の宝物庫に行きたい」
「・・・それ、結局城だな」
仕方あるまい。
せっかく抜け出したというのに、またアレに潜ることになろうとは。
三人は街の中からならどこからでも見えるその大きな城へと歩みを進めた。
と、そんな時だった。
「・・・・・・リセット・・・?」
現地民ではない。
明らかにこの時代とはかけ離れた服装をした、いかにも高校生といった雰囲気の青年。どこ学園かは知らないが、オリジンにはその制服に見覚えがあった。
「俺の名前をォ呼んだのはァ誰だァあ?」
ぐるっと首をまわし、青年にガン飛ばすリセット。
青年は警戒を露わにするが、その隣・・・いや周囲にいる美女たちはこちらには気付いていないようだった。そんな脳天気な美女達を庇うようにリセットの前に立った青年。
勇ましいが、その足が震えていては意味が無い。
「なぜお前らのような化物がこの世界に・・・!!」
「ん?観光」
「うむ」
「だな」
はい、観光です。
あとは、面白そうな魔物を殺しに行きます。
化物たちは、戦いを、望んでいない。
「か、観光・・・?は?何言ってるんだ・・・?」
なにいってるもなにも、観光でしかない。
「ねぇ勇気・・・この人たちは・・・?」
「なんか怖いよ」
「勇気殿、下がってくれ、こいつらからは血の匂いがする」
血の匂い?あぁ、今日の朝、戦争してたんで仕方ないっすね。
心の中で「サーセン」と呟き、青年と美女達をただ見つめる三人。今の彼らの心境をお教えしよう。
リセット(あ、九時からの番組録画してねェや。後でオリジンに頼んどこう)
キング(おぉスライムよ・・・貴様は本当に愛いやつよ。おお!揺れよった)
オリジン(今日の晩御飯はカレーにしよう、そうしよう)
彼らのことなど、まるで考えていない。
ただ単に考え事をしてて立ち止まっているだけである。青年のことなど、興味はない。
「この三人は僕のいた世界の超能力者たちだ」
「え!?勇気と同じ世界の!?・・・まさか、勇者?」
「いや、前の世界では世界の敵として命を狙われてたはずだ。・・・全て返り討ちにしてたけど」
「・・・・・・だが、今の勇気殿なら・・・」
「無理だ。せいぜい、一分持ち堪えるのが限界だ――」
「ァあ?お前如きが一分も耐えれると本気で思ってんのかァ?」
「なめられたものだな」
「――っ!!――クソッ!!逃げろ三人とも!!」
鎖に拘束され、海パンの凶器である拳が顎に据えられる。たとえ彼ら三人が別のことを考えていたとしても、気づいてから一秒もかからず殺害できる。血の一滴を残すことなく。
青年は風の超能力を使い、三人の美女達を吹き飛ばす。
荒っぽく投げ飛ばしたが、緊急離脱としては有効だろう。だがそれも、奴らに追いつかれなければの話だ。
次の瞬間には、気絶させられた三人の美女達が地面に投げ捨てられた。実行犯はいつの間にか消えていたオリジン。転移してきたようだ。
「くっ!・・・僕達をどうするつもりだ!!」
どうするつもりもありません。
というか、本当なら三人は彼に気付くことすらなく、交わることなどあるはずもなかった。声をかけたのは青年からだ。
「時間取られたから殺す・・・ッてェほど腐ッちャいねェよ」
「我らは時間を気にする必要も無いしな」
時間なら腐るほどある。
青年が思っているほど彼らは狂気的な思想家ではない。・・・人と出会ってから全く別のことを考える人間が普通だとは言わないが。
「そういう事だ。山岸勇気。私たちは貴様に興味などない。邪魔をすれば消すが、そうでも無い限り敵対もないだろう」
まぁなんだ。
自意識過剰になるな、山岸勇気。
「詫びが欲しいというのなら、ここであった事の縁も含めて、お前の知りたいことを教えてやろう。魔王の力の秘密だ」
「・・・なぜ、オリジンが魔王の秘密を知っている?」
「私が全智であるから、では足りないか?」
「・・・・・・全智?何を言っている、貴様の能力は――」
「そこから先は秘密だ。忘れろ」
「――・・・記憶を消されたか・・・?」
「正解。素直に受け取れ。魔王はとある状況下で力が増す術式を全身に書いている。幾つかあるが・・・二つだけ教えてやろう。一つは闇、二つ目は人数だ。あとは自分で考えろ」
「術式を消したりは?」
「私なら可能だが、お前では不可能だ。この世界でも神域の数名が全神経を使って三日三晩を解呪に使えば解けるだろうがな」
つまり、無理ってことだ。
「アドバイスありがとさん。あんたらは、戦わないんだな?」
「この世界をまるごと潰していいならやるが?」
「遠慮しとく」
「あっそ」
魔王よりもこの世界に被害をもたらすことだろう。
彼らにかかれば魔王なんぞ赤子と変わらないだろうに。
「ンじャ、オリジンのお話が終わったところで、俺らも行くとするか」
「なんだ、遅かったではないかオリジン。何かあったか?」
ぶちのめすぞ。
「いや、もう終わった。行くぞ」
踵を返し、三人は城へと向かう。
美女三人と青年は放置。
オリジンがいつの間にか張っていた認識阻害の結界を外すと、周りが勇者『山岸勇気』に気付き始める。黄色い悲鳴がひびき、歓声があがる。この街ではかなり人気のある人物のようだ。
しかし、ある一定層からは嫌われているらしく、建物の影からは彼らの様子を伺うフードの集団がいた。既に眉間を貫かれ、血を垂れ流す死体としてだが。
(世話のやけるガキだ)
同郷の勇者との出会いを経て、三人はようやく城の前に立つまでに至った。
ようやく、城。
よろしくお願いします