そんな隷属魔法で大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない。
発作的に思い立ち書いたので、急に始まりシュッと終わります。ノリと勢いで読んでね。
「……は?」
眼前に広がる光景を前に、僕の脳は一瞬停止してしまっていた。
教室いっぱいに広がる……うっすらとした魔法陣らしき模様。しかも薄ぼんやりと光るオプション付き。
うわあ、綺麗だなあ~。
………目を逸らした。
いや、綺麗だなじゃなくて。いやいやいやいや! やー、ついにオタクの精神が幻覚を生み出しちゃったかな? あっはっは。いくらネット小説が好きだからって、現実とフィクションを混同させちゃダメだぞぉ? まったくもー、次はちゃんと見てよね僕の瞳!
そう思いもう一度顔を向ける。
魔法陣の光がさっきよりはっきりと見えた。
アイエエエエウソデショオオオオオ!?
落ち着け、きっと今日は調子が悪いんだ。家に帰ってゆっくり休もう。深呼吸深呼吸。
「きゃああ!」
っ、なに!? 人がせっかく落ち着いてきたっていうのに! 例の魔法陣(仮)が他の人にも見えてるような反応をしないでくれ! 本当なのかと錯覚しちゃうだろ!
「なにこれ!?」
「おい、どうなってんだ!」
「光ってる…」
「やばたんじゃん」
リア充グループの女子の一人が叫んだ悲鳴を皮切りに、ザワザワとしていた教室が一気に喧騒に包まれる。
なっ、耳までおかしく!?
……いや、うん。認めるって、現実だよこれ。いつからここはファンタジーの世界になったの。かみさま的な人でも誰でもいいから説明してよ!?
などと思ってはみるが、それを鼻で笑うかのように誰も出てこない。
現実かぁ……。そうと決まればいざ、逃げる!
▽教室の扉を開ける!
→バチバチィッ!「イタァ!?」 なにこれビリッビリくる!
▽窓を割る!
→ゴン! 固っ!? どこの防弾ガラスだよ!
▽魔法陣の範囲外に出る!
→ドンッ「ぶっ!?」 ま、待って…鼻、鼻打った…。
無理じゃん!?
いや知ってた。ダメ元だったから! 泣いてないし!
うわあぁぁ、模様とか光が強くなってるよ。無駄に小説の知識があるからそろそろ時間がないって分かるんだよおぉ。諦めたらそこで以下略って例の監督も言ってるけどさ、こんなの打つ手がないし…。
鼻の痛みと、現状打破の方法が見つからないことによりうんうんと唸りながら辺りを見回してみると、クラスメイトの白城が真剣な…というか、眉間にシワを寄せ、鬼気迫る表情でなにかぶつぶつと呟いていた。
なにあれ怖い。
白城はリア充でもなくオタクでもないといった、中間くらいの人間だ。というよりも、謎が多いのかな。顔は普通よりちょっといいかなぐらい。運動は出来て、頭脳は平均のやや上だったと思う。真面目かと思えばノリは良かったりするんだ。
前にポロっとラノベの話をしちゃって、それに対してそのネタで返してくれたことがあって……
「白城ってさ、正直オタクっぽいこととは無縁だと思ってたよ」
「ん、そう? 有名なものだしそれぐらいなら分かるよ。漫画やアニメもそこそこ嗜んでるし、なんて。あはは」
「ほんと!? ちょっと予想外だったなあ。あ、そうだ。じゃあさ、春から始まるアニメで___」
――こういった会話があったんだ。その後から少し距離が縮んだんだよねー。
たまに達観してるなーと感じることもあるけど、話せば気が合う。友達一歩手前ぐらいの関係だ。
いや昔のことより。どうしたんだろ、あんな白城見たことないや。
そして僕以外にも、朝比奈さんが白城を見ていた。
朝比奈さんというのは、美人で髪はセミロング。目はぱっちりしていて、ややつり目だけど性格は明るく、サバサバしているが包容力があるとかで我ら男子たちにもなかなか人気がある。男女問わず…僕らみたいなオタクにも話しかけてくれるんだ。だけど、話しかけてきてくれても緊張とかはしないんだよね。失礼かもしれないけど…包容力というより漢気…いや、兄貴肌(この場合は姉貴肌か?)を感じることが多い。
だってさ、
「よーっし、体育祭かぁ。気合いが入るな!」
「うん、どうしたんだ? …なるほど、そこはこうしてみたらどうだ?」
「男なら喧嘩の一つや二つ、若いうちはしておいた方がいいぞー」
「勉強? ああ、どこが分からないんだ?」
こんな感じなんだよ。見た目はデキるお姉さんといった感じなのに、喋り方も雰囲気も女の子というよりは頼れるお兄さんみたいなんだ。
分かってねえな、そのギャップがいいんだろ! と熱弁するやつもいたけど。
友達に言ってみると、「まあ、確かに。朝比奈さんが上司とかいいよな」と言われた。やっぱり! 分かってくれるよね!
そんな彼女は、最初は難しい顔をして白城同様何かを呟いてたんだけど、直後「ん?」と不思議そうな顔をした。白城の方を、顎に手を当て目を細めてじっと見ている。こっちもどうしたんだ…? 二人ってそんなに接点なかったと思うんだけど。
そこまで考えると、魔法陣が一際大きく光った。悲鳴が聞こえる。
う…はぁ~…ごめんなさい監督、諦めなくてもどうにもならないこともあるようです。
(せめてまた帰ってこれますように…)
目を開けていられないくらいの光の洪水と、浮遊感。
「__、rewrite」
誰かの声が聞こえたところで、僕らはその場から消えた。
◇◆◇◆◇◆◇
「よく来たな、勇者ども」
低い声だ。あれ、こういう場面だと普通お姫様とかじゃないの?
そんな、普通のクラスメイトとは違うであろう思考をしながら目を開けると、所謂テンプレな光景が広がっていた。広い部屋には、でっぷりと肥え高価そうな服を来た王様っぽい人、それに魔法使いみたいな格好をした人が十人くらいいる。
ここらへんはテンプレなのね。それなら美人なお姫様とかサービスしてもいいと思うんだけどなあ。
僕らに向けて言ったのは、佇まいからして王様かな、豪華な椅子にふんぞり反ってるし。って、人を見た目で判断しちゃだめだけど、なんか性格悪そうだなぁ。いかにもな感じ。
(ほ、ほんとに召喚されちゃったんですけど)
こういうのは物語として見るから面白いんであって、自分が行きたい訳じゃないんだよね。そして言葉が分かる不思議。よし、それじゃあまずはーっと。
(ステータスオープン!)
(……我が力、顕現せよ!)
(……神よ、我が願いに応え御力を顕し給え!)
…あ、あれ……出てこない!? 嘘だ、この結果でこれからのことが色々変わるのに! もしかしてステータスはないのかここ…?
僕がなんとかステータスを見れないか悪戦苦闘している間も、クラスメイトは混乱しているのだろう、ざわめきが収まらない。中には不安そうな者、逆に興奮している者もいる。
「なにここ…」
「え、撮影?」
「うわ広っ」
「異世界召喚来た! これで勝つる!」
はあ、帰りたいなあ………最後は何に勝つんだおい。
「早く帰りたいって顔だな」
「うわっ」
いきなり話しかけてきたのは柳時雨、幼馴染みでウマが合う僕の親友だ。
「急に来て心読まないでよ」
「お前が分かりやすいからだ。それにしても随分落ち着いてるな、もう少し焦っているかと思ったぞ」
「それを言うなら時雨は…いや、愚問だったね。」
「まあな」
ほんとブレないというか動じないというか…。
小学生の頃からの付き合いだけど、時雨が焦ったり取り乱したりするところを見たことがないんだよね。順応性高すぎだと思うよほんと。
「僕はまあ、魔法陣ってことで予想はしてたから。それよりも、これがどういう類の召喚かの方が大事だよ」
「ああ、それなら多分…」
クラスメイト達の喧騒の中小声で喋っていると、顎の肉を揺らしながら王様(?)が言い放った。
「とっとと黙れ家畜が! 貴様たちには魔王を殺してもらう! 俺様の役に立てるのだ、光栄に思うがいい!」
(あ、これ駄目なやつだ)
隣で時雨が、『やはりか』といった表情をしていた。
我が家が恋しいよ、おかーさぁーん!
◇◆◇
クラスの皆は突然の命令と内容に、色々な反応を見せていた。呆然とする者、事態が読み込めずキョトンとする者、ふざけるなと憤っている者、逆にテンションが上がっている者など様々だ。
うわー、これ絶対こき使われるやつー。よし、目立たないようにしよう。
その中で僕は気配を消すことに専念する。多分嫌そうなのが顔に出ているだろうと思いながら時雨の方を横目で見ると、別の方向を向いていた。何を見てるんだと疑問に思い視線を辿ってみると…白城?
え"っ、あれ白城なの? なにあれオーラが見える。誰が見てもキレてるって分かるよあれ! 目を細めて青筋を立ててちょっとニヤリとして。憎々しい敵を見つけたみたいなあの顔! 誰あの悪魔、こっわ!? 普段の温厚さはどこいっちゃったの白城!!
ちょ、ちょっと見なかったことにしよう。
時雨は少し探るような顔をしながら白城を見ていた。あれは何かを見定めてる顔だな、てことはなにかあるんだろうか。いや絶対あるよ、ただの高校生が初対面の人に向かってあんな顔しないよね。
人を射殺さんばかりの顔を見て少々冷や汗を流しながら、他の人はあの顔を見たのかなと見渡してみると、またもや朝比奈さんが。ん? 今度は笑ってる。…笑ってる!? あの憤怒の鬼を見て!? 二度見しても目を擦っても表情は変わらなかった。楽しそうな、親友に会えたというように口角を上げて笑っている。白城と朝比奈さんの、二人の表情の対比が怖いよ…ってあれ? 王の言葉には反応もしてないね。他の女子は殆どが怯えたりしてるのに。
「いいか、貴様らは召喚された時点で俺の奴隷だ。魔法陣の効果として俺には逆らえんから無駄なことは考えるなよ」
うっわ、最悪のパターンだ。奴隷。それって解除出来ないのかな。どうしよう、暫く従いつつ反旗を翻す機を待つか? と言ってもどうせ『命令を絶対順守』とかがあるんでしょ? やっぱり性格悪かったなこいつ。
「たかが魔族ごときに領地なんぞもったいない、俺のために使ってやった方がよほどいいだろう。そのためには魔族を統治している魔王は邪魔なんだよ。あの忌々しい魔王を殺せるようになるまで死ぬ気で訓練しろ。反逆は許さん、自殺も許さん、俺の命令のまま生きて死ね。俺様の役に立てるんだ、貴様らごときには身に余る褒美だろう」
…なんなのこいつ、自分勝手すぎるでしょ。ていうか聞いてもないのに自語りとか思春期ですかなんですか。魔王って言うからには人を殺しまくってるのかと思ったら、ただの自分の欲のためっぽいよね? なに、こんなクズに従わないといけないの。こいつの自己満足のために僕らはここに喚ばれたの? 人を巻き込むくらいなら「自分が死ねよ」
シンとした空間にそれは響いた。
………。
…………え?
あ…あ、あ。やばい。心の声が出たかもしれない。
あれ、今僕声に出した? 出したかもしれない、いやいやそんなまさか。目立たないようにって思ったばっかりじゃん。でもなんか皆こっち見てる。王もこっちみてる。キョトンとしたあとすっごい怒った顔してる。えっ嘘でしょ? ちょっ、時雨! 笑いを堪えるな! 肩を震わせるなああ!! えええ朝比奈さんも笑ってる!? 向こうを向いてるけど絶対笑ってるでしょ! 口押さえてるし! サムズアップしてるけど今僕まずいからね!? 最悪殺されるからね!?? こんなときどうすればぁぁっ、はっ、そうだ! こういうときこそ召喚特典のチートっ………使い方あああああ! 誰かチートの取り扱い説明書プリーズ! いやあるかどうかも分からないけどっ! 詰んだ? 異世界生活が始まる前に詰んじゃった!!?
パニックになっていた頭は1周回ったのか、ふと冷静になる。
あれ、逆らえないはずなのに黙れって言われても喋れてる。そういうのはオッケーなのかな?
「ほう? ただの奴隷ごときが俺様に口ごたえ出来るほど偉くなったつもりか? いいだろう、数はいる。見せしめに一匹殺してやろう。いいか貴様ら、 俺が許すまで口を開けるな。これは命令だ」
やばい、本当に殺される。死にたくない、どうしたらいいの。冷や汗が止まらない、心臓が痛い。解決方法、はっ、時雨は…
「大丈夫だ」
目を合わせると、口の端を上げニヤリとしながら小声で答えてくれた。あれは勝算があるときの顔だ。信じていいの? 信じちゃうよ? おかげで少し緊張が解けてきた。
……へ、ていうか今喋って―――
――そのとき、何かがものすごい速さで近くを突き抜けていった。
「ブッ!?」
反射的に振り返ると、白城と朝比奈さんが王を殴っていた。
「ほ~、綺麗な右ストレートだな」
笑いながら時雨が言う。
へえ、右ストレー……ト?
「ファッ!?」
いかん、あまりのことにちょっと意識が。って、え?殴り倒してる!? うん、何度見ても殴り倒してる。もしかして真横を突き抜けたのって拳? 例の悪鬼の笑みを二人が浮かべながら?
あっるぇえええおっかしいぞおおお?! 二人とも浮かべてる!?
後ろの椅子を破壊しながら、クズが吹き飛んでいた。嘘でしょ、あのふっかふかっぽいお高そうな椅子、そんなに簡単に不燃ゴミになるほど脆くないでしょ…?
「さっきからペラペラペラペラ。いい加減口を閉じるのはお前だろう? クソ王子がよ」
君そんなんだっけ白城ィ!! キャラ変わってる! 口調も変わっちゃってるから!!
「ふ、本当に貴様は変わらんな。また懲りもせず魔族に喧嘩を売っておるのか? この塵屑め」
朝比奈さあああああああん!!!?? 待ってええええ!!? すごいドスの効いた声だったんだけどおおお!? でもめちゃくちゃ様になってる!? 誰あれ、なんか二人が覚醒してる! キャラ崩壊どころじゃないよ!!
「なあっ!? き、貴様ら、何故ッ!?」
鼻血やらなにやらを垂れ流しながら叫んでいる。何故喋れたり出来るのか聞きたかったのかな。うん、それは僕も知りたい、けど…
「あ? よ……っくも昔はこき使ってくれたよなあクソ野郎がよお? 忘れたとは言わせねえからな」
「魔法陣の効果はこちらで消しておいたぞ。ったく、何重にも隷属化の魔法を付与しおってからに。……我にあんなものを使ったんだ、覚悟は出来ておるよなァ?」
なるほどそれで……っていやいやおかしいって。なんで朝比奈さんそんなこと出来るのさ。白城曰くクソ王子とやらがボロボロになっているのを見て、目の前の出来事から考えが逸れる。二人って何者? 絶対ただの高校生じゃないって。むしろ今までなんで普通に高校生やってたの?
わぁ、魔法らしきものも使ってる。空中に磔にされて、明らかに強化してるっぽい拳やら足やらで殴りまくってる。あ、髪の毛火炙りだ。あれは毛根死んじゃうだろうなぁ…。
「ふむ、白城は過去にあの王のような奴に何かされた…というより、俺たちの先輩っぽいが。朝比奈は分からんな、召喚者には見えん」
おおう、ごめんちょっと存在を見失ってたよ時雨さ「おい、今俺のこと忘れてただろ」「は、ははそんなまさかぁ」
勘が鋭いしなんかめっちゃ冷静に考察してるけど。あれ、そんなんなの? こんなときまで高すぎる適応力発揮しなくてよくない? いや、今こそ発揮するときなのか……?
「まっ、待て! 誰だキサマッぐあっ!?」
「誰が喋っていいって言った? 王子は王になってもクソ野郎ってか。20年前……ああ、こっちだと5年前くらいか。召喚したやつを忘れたとは言わせねえぞ。こちとらてめぇのせいで人生めちゃくちゃになってんだよ、オイ」
「まて!! そこはっ!? ぐわあああああああ!!!??」
ひええぇぇぇ……。
つい股を押さえてしまう。敵ながら同情しそう。
ヒュってした…あれ絶対痛いよ、もしかしてぶった切られるんじゃ…。
「あああああああああああああ!!!!!??」
ブヂッ ……あっ。
ご、ごほん。魔法使いの奴等にもついに…。ああ、身体はあんな風に曲がらないって、ほら聞いたことがないような絶叫が聞こえるよ。
白城、何があったんだ…。さっき殺されそうになったけどなんか同情どころか引いた。うん、クラスメイトもちょっと、いやかなり引いてるよ。急にスプラッタ見せられるんだもの。それも絶対テレビじゃ規制入りまくるような、R18Gくらいのやつ。血の臭いや刺激臭がすごくて何人も気絶してるし。召喚された時調子に乗ってた人は一番最初に倒れてたよ。
「お主、よっぽど怒りが溜まっていたんだな」
「んあ? 誰、……朝比奈?」
今まで気付いてなかったんだ!!? もう起きてるクラスメイト皆ポッカーンとしてるよ、状況に追いつけてないよ時雨以外! 時雨はニヤニヤすんなって! あれを見てよくそんな顔できるね!?
「なんだ、今気付いたのか? 『久しぶりじゃな、勇者の小僧』」
「……。もしかして魔王、か?」
朝比奈さんは声色を変えニヤリと笑って言った。
えええええ!? 魔王!? 殺してこいって言われた対象が朝比奈さんだった? 嘘でしょ!?
「はっはっは、やっとか! まあ元魔王だがな。魔法陣の効果を消しているお前の魔力を見てもしやと思ってな」
肯定しちゃったよ!!! マジかよ!!
時雨ェ! 「ああ魔王か」みたいな表情をするなあ! そもそも勇者(?)と魔王なんであんなに親しげなの!? 誰か質問してくれそうな人…!
誰かいないのとあたりをキョロキョロ見回す。
時雨、笑ってて無理。クラスメイト、ドン引いてたりぶっ倒れてるから無理。王、死にかけだから無理。魔法使い達、生きてる? 僕、うん無理!
「なるほどな、やっぱり同時期に同じ場所から転生の魔法を使うと似たような場所に生まれるようだな。今回のことで嫌なことを思い出したが、おかげで収穫もあった」
「そうだな、我も驚きだ。同じくネチネチ喧嘩を売ってくる傍迷惑な輩をぶっ飛ばせたし、親友にも会えた。なかなか良い経験だったぞ」
「ふふっ、確かにな」
言いながら攻撃の手は止まないんだね…。
マブダチ……勇者と魔王マブダチなんだ…きっと僕なんかには想像もできないなにかがあったんだろうなあ。というかクラスメイトに勇者と魔王の生まれ変わりがいたんだ、そっか……そっか………。
二人の折檻によってボロボロになった部屋から、外の景色が見える。
(この世界でも空は青いなぁ…)
遠い目をしながら思ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
もはやインパクトありすぎる出来事によって忘れてたけど、地球には問題なく帰れるとのことらしい。なんか元魔王様が召喚したときの魔法陣を解析して改造したらしい。理解できないけどすごい。
そして元勇者様が、「この国の上層部はほぼ腐ってるけど、極稀にまともなのもいるから、牢獄に」と(もはや空気と化していた僕たちに)言って、元魔王様は「国の一斉汚物掃除じゃー!」とヒャッハーしていた。どこの世紀末なの。前の朝比奈さんの見る影もないよ…。
そんなこんなで異世界召喚という稀有な体験をしたその日の内に、全員で帰ってきたのだった。
ただ、二人を除く誰もが疲れた顔をしていたのは、言うまでもない。
この日の出来事は、後に「勇魔改革」と呼ばれるようになったそうな。
王は過去にも私利私欲のために魔族領を侵食しようとして、異世界から人を拐い消耗品として扱っていた。
そんなこんなの理由があり、王は殺されずに白城の気が済むまでいたぶられるようです。気が済むかどうかは不明。
今までは上層部が腐りきっていて優秀な者が日の目を見ることはなかったが、改革後白城が責任持って跡継ぎにした。後ろめたいことがあり都合が悪い連中もいたが、時には誠意あるお話(脅し)、時には楽しいお仕置き(粛清)をして国は滅亡を免れた。徐々に盛り返していき、100年後にはここいら一帯で一番栄える国にまでのし上がったとか。