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ゲームと現実を混ぜてはいけないはずなのに!  作者: 八城
1章、不具合だらけの一週間
4/11

不具合だらけで遊べない

 連合協会にもやはり誰もいなかった。

 ギルド戦申し込み会場と同じように、ある部屋は天井がなく青い空が見え、雨風に晒されたのか土埃や泥にまみれていて元のふかふかな絨毯の面影もなかった。


 予想通りで安心するべきなのか、誰もいない廃墟の不気味さにおののくべきなのか。

 どちらの心境でもない私はそんな取り留めもない事を考えながら、歩みを進める。


 受付の前を通り、ホールから廊下へ出て、いくつかの扉を超えた先の四畳半ほどの広さの部屋。

 そこに、各ギルドのギルドホールへ跳ぶための”転移陣”が設置されている。

 けれどもやはりというべきか、その転移陣の傍にいるべきNPC――協会本部と各ギルドホールをつなぐ転移陣の全てを維持管理しているという設定の魔法使い”レインベール”の姿はなかった。


 廃墟と化し、転移陣を安全に使うために居た”レインベール”の姿もないということは、つまり。

 つまり、この”転移陣”が動くか否か。動いたとしても正常にであるのか否か。

 そういった部分に不安が出る、という事である。


 私の”八城”も魔法使いとは言え、さすがに転移陣を動かすためのスキルを持っている訳がない。

 その前に、プレイヤーである魔法使いたちの誰一人として、転移陣を動かすためのスキルは持っていないだろう。

 習得可能魔法一覧で見た事はないし、攻略サイトの隠し魔法一覧にもそういったものはなかったと思う。

 支援魔法の中に”長距離転移(ロングテレポート)”や”短距離転移(ショートテレポート)”もあるが、そのふたつは転移陣のように”魔法陣”を使ったものではない。そもそも、転移陣とは違って、プレイヤーの覚えられるテレポートはどちらも自分ひとりしか運べない。


 一応、いつものように転移陣の上へと足を踏み入れ、10ほど数えてみる。

 転移陣はうんともすんとも言わず、何も起こらない。


 記憶を探り、”レインベール”がどういう行動をしていたのかを頭に浮かべる。

 たしか、プレイヤーが転移陣に乗った後、”レインベール”は傍の水晶へと手を置き、何か呪文のようなものを唱えながら、反対の手で杖を持って陣の上へと振りかぶって、そこでいつも陣が発動して自分たちの所属するギルドホールの転移陣の上へと移動していたように思う。


 記憶にある”レインベール”のマネをして発動するか試してみようかと考えるが、メニューのギルド項目のバグり方を思い出して、踏みとどまる。

 万が一にでも発動したとして、その結果、あの伝説の”いしのなかにいる”状態になっては堪らないからだ。

 お問い合わせ項目やログアウト項目があればまだ、その状態になったとしてもなんとか出来る。が、どちらも消えた上に不具合で色々なものがバグっているらしい現在、その状態になってしまうのはまずいだろう。

 私も神経が図太い方ではあるが、さすがに誰にも連絡がとれない上にログアウトもできない状態でそんな事になってしまったら、数日後には助けてもらえるだろうと予想をしているが、それにしても数日間そのままとか、発狂するのではないだろうか。


 つまり、ギルドホールへの移動は不可。

 ギルドホール内にあるはずのNPC商店の使用も不可。

 街の商店はひとつもなかったし、メニューから使えるはずの”通販”項目も消えていた。

 アイテムの購入はできないと思って間違いないだろう。


 自分で作るという手段もあることはあるのだが、私の他のキャラクターならばともかく、この”八城”は比較的魔法に特化した魔法使いであり、料理や調薬等の生産スキルのレベルは必要最低限――キャラクターを新規で作成した後に受諾できる初心者用クエストに生産スキルが必要――しか持っていない。

 作成できない事はないが、下級レベルのものまでしか作れない為、狩りに使うには心許ない。


 今日一日だけならポーションを使い切ってもよかったが、このままプレイヤーに誰にも会う事ができなければ、最低でも四日後なのだ。

 四日間は手持ちのポーションでやりくりしなくてはいけない。

 もちろん、それまでに不具合が解消されてログアウトができるか、NPCの店が復活すれば、その限りではない。

 が、運営はいつも、不具合を認めてから修正するまで、割と短くない時間がかかっている。それこそ、少なくても1週間はかかるのではないだろうか。

 当てにしない方が利口だろう。


 そうなると遊び倒すぞ計画から”狩り”は外さなければならないだろう。

 消耗品を消耗できない状態なのだから仕方がない。

 デスペナルティ――このゲームの場合は死亡すると丸一日レベルが半分の状態になる上にその間の取得経験値は全て0倍にされる――は怖いものなのだ。

 経験値が0になるのは構わないけれど、レベルが半分になったら色々と困るからね。


 メニューからクエストを選択し、未受託クエスト一覧を開く。

 が、何もない。

 まだそれなりの数、未受託状態なクエストがあったはずなので、ここもまた不具合なのだろうか。


 仕方がないので、ひとつ前の画面に戻してから、イベント用クエスト一覧を選択。

 王都の状態はイベントだろうからと希望をもって一覧を見る。

 けれど、表示されるものは何もない。


 不具合、多過ぎだろう!


 狩りもクエストもできず友人やギルメンと話すこともできないとか、このゲームをプレイする意味が全くないではないか。

 という事は何か。


 私はこれから少なくても4日間。

 誰かに会えるか、運営や実家の誰かが気が付いて強制ログアウトをさせてくれるまで。


「この誰もいない王都で、ひとり、さみしく! 何もせずに引きこもっていろという事なのか!」


 言葉に出してしまうと実感がわいてきた。

 思わず頭を抱え、その場にうずくまってしまう。

 ロングコートの裾に土や泥がついてしまったが、正直それどころではない。


 せっかくの連休だったのに。

 連休を連休にするためにこの半年、がんばって仕事を片付けてきたというのに。

 不具合のせいでそれがダメになるとか、なんといういじめなのだろうか。


「……言っても仕方ないか。連絡とれないし」


 心の中で吹き荒れるやり場のない怒りをなんとかやり過ごし、立ち上がる。

 ロングコートの土埃を払う。幸いにも泥はつかなかったようで、しみはない。


 私はため息をひとつ吐く。

 遊び倒す予定だったこれから先の数日間。

 何をして過ごせばいいのだろうかと頭を悩ませるのであった。


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