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ゲームと現実を混ぜてはいけないはずなのに!  作者: 八城
1章、不具合だらけの一週間
3/11

特殊イベント発生?

〈フィールド:新緑の森、北西部〉


 右耳すれすれを冷たい塊が通り過ぎ、鉄の塊が大きな何かにぶつかるような音が響く。

 走りながら通り過ぎたであろう先を見れば、大人の胴体よりも太い幹を持つ木々がなぎ倒されており、さらにその先には大きなクレーターが形成され、砂煙が巻き上がっていた。

 その破壊の大きさに背筋にヒヤリとしたものが流れるが足は止めない。

 足を止めずに左手であらかじめ呼び出してあったショートカットキーを叩き、右手に持っている杖を掲げる。


 その瞬間、目の前に太い幹が現れた事で魔法がちゃんと発動した事がわかる。

 私は迷わずその幹に手をまわしてしがみついた。

 同時に地面を割るような轟音が立て続けに起き、私が居る場所の斜め下、一瞬前まで私が走り抜(・・・・・・・・・・)けていた場所(・・・・・・)を大型のモンスター――双頭大熊(ツインヘッドベア)が五匹ほど走り抜けて行った。

 道から逸れた私に気が付く様子はない。


 徐々に小さくなっていく轟音――おそらくはツインヘッドベアの足音――に息を吐き、完全に聞こえなくなった所でその場に――木の枝の上で座り込んだ。


「調子に乗って釣り過ぎちゃったよ、反省反省」


 誰ともなしに呟いて、杖を持っていない左手で額をぬぐうふりをする。

 すると不思議な事に、その甲に水滴がついていた。まぎれもなく、汗である。

 このゲーム、涙は出るが汗や鼻水、生理的欲求なアレコレは出ない仕様であったはずだったのだが、これも不具合なのだろうか。

 腕を組んで目を閉じ、しばらく考えてみるも答えは出ない。


「まあ、誰かに会えた時にでも聞いてみたらいいかな?」


 幸い、私の友人知人は廃人ばかりだ。

 聞けば誰かしら、教えてくれるなり、運営に質問してくれるなりするだろう。


 これ以上の案はない。

 汗について考えるのは止め、私は足をぶらぶらとさせながら、アイテムボックスの一覧を呼び出した。

 これからどうしようかなと移動アイテムの名前を見比べ、確認作業を思い出しながら次は何をしようかと考えかけ、その前にする事があったと気がついて手を止める。


 杖をふりながらスキルショートカットにセットしてある魔法”音熱結界”を発動させる。

 まず杖がほのかに光り、次に淡く白い膜が私の周囲すべてを囲うように現れた。


 防御魔法”音熱結界”。

 それは音も熱も遮断する結界を、自分を中心とした周囲に張るものである。

 どの程度の音や熱を遮断できるかと言えば、それは魔法レベルに依存し、レベルが高くなればなるほど効果が高くなっていく。

 当然ながら私の音熱結界の魔法レベルは上限――100レベルまで上げてあるので、私一人の体温も声もこの結界の外へと流れ出る事はない。

 広さはその魔法を使う時にこめる魔力量に依存し、現在は私だけが隠れればいいのと、魔法使いという職業の特性上、そこまで魔力を使っていない。


「しかし、まさか転移石の中でも”新緑の森”しか使え(いきて)ないとは……」


 アイテムボックスのアイテム一覧のソート機能を使い、転移石だけを表示させる。

 転移石も課金アイテムのひとつだ。

 正確には、記憶石と呼ばれる記憶専用のアイテムが課金アイテムであるが、それは使うと町以外のフィールドを記憶する事ができ、記憶すると同時に記憶した場所へと飛ぶことのできるアイテム――転移石が生成されるのだ。

 町以外というのはそのままの意味で、町だけは記憶しようとしても記憶ができないようになっている。なので、転移石で移動できる場所は全て町以外の、モンスターが出現する可能性があるフィールドのみである。

 それから、ひとつの記憶石につき記憶できる場所は三か所までなので、記憶したい場所が三か所を超えたらまた改めて記憶石を購入する必要がある。

 ゲームアイテムにしては少々高い値段ではあったが、私自身はこのゲーム以外に趣味と呼べるものがなかった為、少々高くても便利だからと、それなりの数を購入して使っていた。

 未使用の記憶石のストックもまだ二桁個以上はあるはずだ。


 ソート機能を使って移動石の一覧から移動アイテム一覧へと変え、眺めながら考える。


 移動石で生きていたのは”新緑の森、北西部”のみ。

 他の場所は何度移動石を使っても行けなかった。

 記憶石も試してみたいが、すでに移動石のあるこの場所を記憶するのは何だか勿体ない。

 なので、記憶石のバグ検証はひとまず横へ置いておく。


「スキルと装備は問題なさそうだし、乗り物アイテムも問題なく使えた。移動石は残念な結果だったけど、まあ、狩りばかりがこのゲームでもないからね」


 あとは町に戻って、町同士をつなぐ転移陣(テレポーター)が生きているかどうかの確認をすれば移動手段の確認は終わる。

 ログに残すためにたまにひとり言を呟きつつ、改めてショートカットキーを叩きながら杖を振った。


 使ったのはもちろん、最後に立ち寄った町に戻る事のできる支援魔法のひとつ、”帰還術”である。





〈フィールド:王都セスティルフィーズィア〉


 帰還術は無事発動し、私は街――王都”セスティルフィーズィア”へと戻ってきた。

 戻ってきたはずだった。


 プレイヤーやNPC等、たくさんの人がいるはずの王都。

 しかし、私が帰ってきたその街には人っ子一人、見つからない。

 石やレンガを積んで固めて造られた王都に相応しいはずの家々は、何年も誰も住む人がいなかったのか窓や扉は腐食し、屋根に穴が開き、壁も壁とわからないくらいにまで崩れているものもあった。

 廃墟、である。


「……イベントかね」


 今日ログインした場所、ギルド戦申し込み会場もボロボロになっていたなと思い出し、いくらゲームとは言え理由もなく王都を廃墟には変えないだろうから、新しい期間限定イベントか何かかなとあたりをつける。

 期間限定イベント中は普段と違う特殊フィールドにとばされる事はよくあることであったから。

 けれど、それにしては、NPCはともかくとして。

 プレイヤーですら、私以外に見当たらない事が解せない。

 サービス開始からそれなりの年月が経つとはいえ、このゲームはまだそこまで過疎っていなかったはずなのだから。


「呪われた魔法使い専用のイベントだったりして?」


 ふと思いついた理由を口にすると、その理由がなんとなくしっくりくる。

 知っている範囲で”呪われた”と職業名の上についているキャラクターは私の”八城”だけである。

 探せば他にもいるかもしれないが、とりあえず周囲に私以外はいないようであるし、可能性としてはそれが一番高いだろう。

 違っていたら違っていた時で、運営にクレームのひとつやふたつやみっつやよっつ、入れればいいかな。


 特殊イベントに違いないと決め、指標を探して街をうろつく事にする。


 時折崩れ落ちる石壁や、風に吹かれて転がる木の枝や落ち葉の音。

 それと私が歩くと同時に響くコツコツという足音をBGMに、連合協会本部があるはずの場所へ――なんとか形を保ってはいるが、やはり廃墟と化している建物の前へとたどり着く。


「廃墟マニアにはたまらないのだろうね」


 休暇の度に廃墟へと行き、写真をたくさん撮ってくる友人がいるのだが、その友人の撮った廃墟に近い雰囲気があるように思える。

 自分には理解できない世界ではあるが、否定する気はない。

 好きなものは好き。それでいいのだ。

 だから、スクリーンショットを撮って友人に見せたら喜ぶだろうと行動して、スクリーンショット機能が消えている上に使えない事に気が付いた。

 また不具合か。クレーム案件が着々と増えていく。


 使えないものは仕方がない。

 スクリーンショットを撮ることを諦め、連合協会であろう廃墟の中へと入る事にした。

廃人 = 廃プレイヤー

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