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ゲームと現実を混ぜてはいけないはずなのに!  作者: 八城
1章、不具合だらけの一週間
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 いつも(・・・)と違い少し重い気がする頭を振り、目をゆっくりと開く。


 まず見えたのは崩れかけた石の壁。

 その壁の上に天井はなく、清々しいまでに晴れ渡った青い空が見える。

 足元を見ればそこにはふかふかであったはずの絨毯が、泥まみれでぐちゃぐちゃになった状態で敷かれていた。

 いつも通りではない(・・・・・・・・・)周囲の様子に、アップデートでもあったのかなと考えながらメニューを呼び出す。


〈フィールド:ギルド戦申し込み会場〉


 バグって場所をとばされたのかなと思ったのだが、表示されたフィールド名はログインしたはずの場所で間違はない。


「おや?」


 バグっていないならアップデートの類があったのであろうが、記憶を探れどそんなものが今日あったとは聞いた覚えも見た覚えもない。

 どうしたことだろうかと、思わず声を出して首を捻る。

 が、そこでまたひとつ、驚きの新情報を見つけてしまった。


「声も、いつもと違う?」


 職業で性別が決まるこのゲームではあるが、声は自分の声をそのまま使ってもいいし、選んだ職業の性別寄りに自分の声を加工――だみ声っぽくもできるし逆に幼女っぽくもできる――して使ってもいいのだ。

 私はせっかくだからと理想の重低音ボイスに加工していたはずなのだが、聞こえてくるのは少年にも少女にもどちらとでも取れるような、宝塚の男役のように涼やかな声である。

 やはりバグったか、不具合が出たのだろうかと思い、メニューから運営への問い合わせを選択。


「あれ?」


 選択しようとしたが、メニューからは運営へのお問い合わせの項目が消えていた。

 ならばと、ログインをし直そうと思うもログアウトの項目もない。

 これは困ったとフレンドリストで友人に連絡を取ろうとしてもフレンドリストも存在しない。


 ログアウトもできず、問い合わせもできず、友人にも頼れない。

 かろうじてギルド項目は存在して(いきて)いたが、ギルド名はバグったのか『※〇▽×※◇〇』とよくわからない記号が並び、ギルドメンバーリストは存在していなかった。

 ギルドチャットも使えないのかと思ったがそんな事はなく、いつも通り使えたし、ギルドチャットのログ表示も、表示と非表示を選ぶことが出来た。

 けれど案の定、返事はない。


 さすがの私も途方に暮れそうになるが、そこで思い出す。

 今日から3日間は遊び倒そうと思って水分と排泄物の準備はばっちりしてある。

 ご飯を食べる事は叶わないが、栄養ドリンクで水分とある程度のカロリーは大丈夫だろう。

 人間、水分があれば1週間は生きていられるってどこかで聞いたことがある。本当かどうかは知らないけれど、きっと大丈夫のはずだ。

 万が一、4日目になってもログアウトが出来なければ不審に思った上司が実家にでも連絡を入れてくれるだろう。

 その前に友人の誰かと連絡を取ることができれば、そこから実家に連絡してもらうという手もとれる。

 うん、問題ない。

 無駄に混乱して喚き散らすのは建設的ではないし、もともと遊び倒す予定だったのだから楽しんだ方が良いに決まっている。


「そうと決まれば、まずは現状確認かな?」


 声やフィールドだけに留まらず、メニューにまで不具合が出ているのだから、できる事とできない事は確認した方がいいだろう。

 とりあえず座ってじっくり……と思うが、足元のどろどろでぐちゃぐちゃな絨毯の上には座りたくない。

 いくらゲームの世界とはいえ、ここはVRな世界なのだ。

 味やにおいをはじめ、五感の全てが現実にそっくりに作られている。

 つまり、どろどろでぐちゃぐちゃな絨毯の上に座れば装備品(ずぼん)は汚れるし、ついでに水分が滲みてくるのでパンツまでぬれる。


 そこまで考えて、私はメニューではなくアイテムボックスを開く事にした。

 幸い、アイテムボックスには不具合が出ていないようで、所持アイテムを出し入れする事ができた。


「あ、あった」


 普通であれば入れられるアイテムの量に上限があるアイテムボックスではあるが、そこはそれ。

 課金で容量を増やしたり何かしらの効果を付加できたので、私のアイテムボックスは容量無制限な上に入れたものに対してのペナルティ――時間経過による腐食等の事――は一切発生しない。

 ちなみにそれをするために福沢さんたちとお別れしたプレイヤーは私ひとりではないと明記しておこう。


 あれでもないこれでもないとボックス内アイテム一覧を探し、見つける事のできたアイテム――木でできた椅子を取り出した。

 床に置いて、その上に座る。

 今まで気にしていなかったのだが、今日の椅子は何だか硬く、座り心地が悪い。

 これもアップデートか不具合かによる変化だろうかと考えながら、アイテムボックスから赤いクッションを取り出し、椅子の上に置いて座りなおす。

 それでも違和感が少し残るが、これ以上気にしていたら遊ぶ時間が減ってしまうだろう。

 微妙な座り心地のこれで妥協し、とりあえずは出来る事とできない事の確認をする事にした。


 メニューから会話ログを呼び出し、表示をオンにする。

 このゲームにメモ機能はないが、会話やチャットのログは残る。

 今このフィールドにはプレイヤーは私以外いる様子がないし、普段ならばいるはずのNPC――ギルド戦を申し込むための受付の人――もいるようには見えない。

 メモ代わりに会話ログを使う事にする。


「えー、要確認。装備、移動、スキル、狩りとクエスト、売買、ギルド」


 アイテムボックスは使えるようだからいいだろう。

 装備は、今着けているものが使えるかどうか。付与効果があるかどうか。

 付与してある効果のひとつにHPが0になった際の保険のようなものがあるので、効果が出ていない場合は代用できるものを考えないと狩りをするにしても、クエストをするにしても不安がある。


 移動は移動手段の事だ。

 移動アイテムや乗り物によっての移動も確認をしたい。

 特殊な場所以外は全て徒歩で行けはするのだが、乗り物や移動アイテムを使わない場合は時間がかかる。

 その為、移動手段が使えるか否かで遊ぶ先を変える必要があるだろう。


 スキルはスキル。

 料理や工芸、魔法や武器攻撃技術等々、あらゆるものはスキルと呼ばれている。

 公式サイトのデータ情報によれば、厳密に言えば魔法はスキルではないらしいのだが、スキルも魔法もスキルスロットと呼ばれる場所に設置しないと使えないので、プレイヤー間ではスキルも魔法も同じものとして扱っている。


 狩りとクエストはそのまま、狩りとクエストだ。

 友人やギルドメンバーに連絡をとれない状態なので、遊び倒すと言ってもソロプレイになるだろう。

 使える移動手段やアイテム、スキル次第で決める予定なので、これはまあ、後でいい。


 売買は、消耗品――回復ポーションや移動アイテム、装備強化用アイテム等を買う事ができるのかという一点だ。

 移動アイテムや装備強化用アイテムは最悪なくてもいいが、回復ポーションがないと狩りがキツイ。

 NPCの商店はもちろん、プレイヤーが出している露店や通販――メニューを通してプレイヤー間で売買できる機能――が使えるかの確認は重要だろう。


 そしてギルド。

 ギルド項目がすでにバグっているのはわかっているので、これはあまり期待していない。

 期待はしていないが、ギルドマスター権限をギルドマスターさんに戻していないので、どうにかして連絡をとって権限を戻したい。

 私自身は下心満載で初心者の手伝いをしていたが、ギルドマスターさんはいつも見返りなしで手伝っていたし、初心者でなくても困っているといつも助けてくれる良い人なのだ。

 他の誰かが作ったギルドであればどうでもいいと思うのだが、ギルドマスターさんの作ったこのギルドは潰したくないし、壊したくもない。

 今はバグっているようだが、ログアウトができたら運営に報告してきっちりと修正を入れてもらいたい。


 とりあえずはそのくらいだろうか。


 遊び倒す事は決定で、でも狩りやクエスト中にうっかり死んでデスペナルティをもらうのも嫌だから、死なない為に色々確認。

 ギルドマスター権限をあの人に戻せたら戻したいから、ギルドメンバーも探して連絡をとれるようならとってもらって。

 ついでに友人を探し当てられたら、実家経由で今の状況をなんとかしてもらう。


 そうと決まれば行動あるのみ。

 私は現状確認をするため、メニューとアイテムボックスを呼び出した。

主人公は廃プレイヤー寄りなまったり勢

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