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ゲームと現実を混ぜてはいけないはずなのに!  作者: 八城
1章、不具合だらけの一週間
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 本日の予定の全てを済ませ、家中の戸締りをする。

 火の元や水回りもちゃんと閉じていることを確認し、エアコンの温度設定を暑くも寒くもない室温に設定。

 夕食はちゃんと食べたし、トイレも行った。冷蔵庫には明日の朝昼晩の食事をすでに用意してあり、レンジでチンすればいつでも食べれる。


 私は全ての確認を終えると、冷蔵庫から3リットルサイズのペットボトルを取り出し、冷蔵庫の横に設置してある袋の中から同じサイズの空のペットボトルを取り出した。

 居間を出て寝室へ入ってリモコンを手に取り、電気を付けた。

 そのままベッドには行かずに押入れの手前に設置してある棺桶のように横たえてある四角い箱の前に屈む。

 手に持ったペットボトルの蓋を外すとその箱の両脇にある窪みにそれぞれ設置する。

 蓋は無くさないように箱にひっかけてある袋の中へ放り込む。


 服も下着も全てを脱ぎ、箱の上側――棺桶の小窓のような部分がついている側が開くようになっている、を開けた。

 その箱の中へ身体を滑り込ませ、腰まで入った所でリモコンを手に取り、部屋の電気を消す。

 雨戸も閉めてあるのもあり視界が暗闇に飲まれるが、問題はない。

 最初のころは慣れなくて電気をつけていたが、今では慣れた。ほぼ毎日やっている事を繰り返すだけなのだから、明かりがなくても不自由はない。


 私がいつも通りに箱へと身体を横たえ、手元のスイッチを入れると蓋も閉じる。

 それと同時に箱の中をジェルが満たしていき、私の頭と口と鼻へ、何かの装置が被せられる。

 しばらくじっとしていると箱の中がジェルで満たされたらしい。

 口と鼻を覆う装置からは酸素が出るようになり、頭を覆う装置からピッと高い電子音が聞こえた。




「「おかえりなさい!」」


 いつものように聞こえる声に目を開けると、そこはもう箱の中ではない。

 白い天井と白い壁、床はこげ茶色の絨毯が敷いてある部屋の中に、私は居た。

 目の前にはさきほどのセリフを言ったのであろう、ピエロ姿の少年と少女がにこにこと笑顔で私の前に立っていた。

 その二人の奥には棺桶のような箱が4つ、ある。

 少年と少女が奥の箱へと道を開けた。


「本日はどのキャラクターで遊びますか?」


 少女の方が聞いてくる。

 けれどそれには答えず、私は目的の箱の前まで歩いた。

 私がその箱の前にたどり着くと、クリスタルのような質感に見える大きな箱の蓋が勝手に開き、中からひとりの男が意識のない状態で私の前へ浮いて出てくる。

 腰に届くストレートの黒髪、目は閉じているが遺伝子的に存在しないと言われている紫色の目。深い緑色のロングコートを羽織ったその男は、男と言わなければわからないくらいに中性的である。

 いつも通りに浮かぶその男に触れようとすると、透明なフィルムのようなものが目の前に現れ、男のステータスが表示された。


 名前  八城(やしろ)

 職業  呪われた魔法使い

 レベル 846

 所属  初心者さんいらっしゃ~い

 場所  ギルド戦申し込み会場


 名前は私が決めたキャラクター名。

 他にもいくつか浮かんでいたのだが、他のプレイヤーが使用していたらしく使えず、最終的にこの名前になった。

 八城と書いて”やしろ”と読む。我ながらかっこいい。


 職業は呪われた魔法使い。

 最初はただの何の装飾もない普通の”魔法使い”であったのだが、よくわからないうちというか、いつの間にか、”呪われた魔法使い”に変化していたのだ。

 攻略サイトを見たり、灰プレイヤーな知人に聞いたりもしてみたが、原因はわからなかった。

 が、噂によると他にも職業名の上に”祝福された”やら”一匹狼”やらと付いているプレイヤーも数名いるらしいので、何らかの隠し要素ではないか?との話だった。

 レア職業おめ!とギルメンや友人に言われたが、”呪われた”とか付いた事を祝われても正直複雑だ。現実とゲームを混ぜてはいけないが、でもそれでも人に呪われるような人生は嫌である。

 どうせならもう少しかっこいいものがよかったと言ったら、呪われた魔法使いとかかっこいいじゃないかと口々に言われたので、心で思うだけであるが。


 レベルは名前を”やしろ”と決めた時からそのレベルで止めるんだ!と決めていたので846レベルである。

 日本語で()()()って読めるでしょ?

 密かなこだわりなので、これ以上のレベル上げをする気はない。


 所属は所属ギルドの事だ。

 ギルドというものはいろいろあるが、このゲームではプレイヤーがギルドという組織を作り運営していく方式をとっている。

 ギルドに所属するとステータスにギルド補正というものが入るし、一定の条件を満たした時に入手できるギルドホームの中にあるNPC商店は回復薬などを格安で売っていたりするので、入るだけでもプレイヤーに利点がある。むしろ入らないでいるプレイヤーは縛りプレイ好きなドMなのではないかと私は思っている。

 ちなみに、私の”やしろ”が所属しているギルドは名前の通り、初心者を手助けする物好きの集まるギルドである。

 初心者を手助けした所で利点もとくにないが、暇つぶしができる上に初心者さんにすごいとほめてもらえるので、それが利点と言えば利点だろうか?

 もちろん、聖人かよ!と呼べるような善意しかないギルメンもいるので、全員が私のような下心満載だとは思わないでもらいたい。

 それとギルドはプレイヤー同士の交流に使われているものではあるが、それらをまとめる組織として運営側が用意している”連合協会”というものがある。

 が、それについては今でなくてもいいだろう。そういう組織がある、程度で十分だ。


 場所はそのキャラクターが最後にログアウトした場所の事だ。

 ギルド戦申し込み所というのはその名の通り、ギルド間での攻城戦をする際の手続きの為の場所である。

 先日、ギルドマスターに代わりに申し込んでおいてくれとギルドマスターの権限と共に任されてしまったので、忘れないように八城を申し込み会場でログアウトさせたのだ。

 ちなみに基本どういう場所であれ、ログアウトもログインも可能なのではあるが、モンスターがうようよといるフィールドでログアウトした場合、ログインした途端にモンスターにリンチにされて死亡する事があるので、注意が必要だ。


 それと、性別がステータスに表示されないのには理由がある。

 性別は選ぶまでもなく、選んだ職業によって固定されているからだ。

 戦士は男、槍使いは女、僧侶は男、武道家は女、魔法使いは男……というように。

 容姿はある程度いじることができるというのに、なぜ性別は固定なのだと不思議ではあるが、仕様は仕様なので仕方がない。



「”八城”さまで、よろしいですか?」


 今度は少年がそう聞いてくるが、これもスルー。

 ピエロの少年と少女はどちらも定形文しか言わないし、返事をした所で反応もないので、返事をしても寂しいだけだから。


 八城のステータスを表示しているフィルターを突き抜け、私は八城の胸へと手を伸ばした。



「”八城”さま、いってらっしゃいませ」

「”八城”さま、我々はあなたを歓迎します」


 ”八城”の中へ意識を移す私の後ろで二人のピエロがいつもとは違う言葉を言い、私の意識は暗転する。

 廃プレイヤーの皆様ならわかりますよね、ペットボトルの用途。

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