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#8 再生

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 朔夜が覚醒した先では、叶が必死になって身体を揺すっていた事に気がついた。

「……どうしたんです?叶?」

 朔夜ほモゾモゾと身体を起しながら、その先を見上げた。

「いきなり、助けてくれなんて言うんやもん。起さなあかんやろが!」

 つまり、朔夜は、占夢の間に寝言を言ったようであった。こんな事は初めての事なので、叶が思わず起したのであろう。流石に冷静でいた水城も心配そうに朔夜の顔を覗き込む上うにして見上げていた。

「あ、ええ、大丈夫です……心配かけて……」

 と言いかけた時、背後の水晶に阻まれたミズチがいる所がいきなり光り始めた。色んな色で光り始めた事で、ここにいる五人は振り返った。何が起こったんだと言わんばかりに、目を見開いて。

『ガラガラガラ……』

 水晶の壁が崩れ始めた。そして、この洞窟内をも揺り動かしていた。どんなカがそうさせるのか?五人とも理解できなかった。砂ぼこりが頭上から落ちて来る。

「ヤバイでここは!早出なあかん!」

 叶が、ロ火を切った事で、他の四人も洞窟の外に駆け出しはじめる。その駆け出し始めた時、少年に向って一本の光の束が、洞窟の水晶のあった所から突き刺すように放たれたのである。

「うっ!」

 全身に電撃が走ったかのような痛み。少年は倒れ込んだ。こんな痛みを感じたことなどはなかった。蹲り、立ち上がる事が出来なかった。後ろからそれを見ていた朔夜が抱き抱えるようにして少年を洞窟から救い出す。軽くて良かったと朔夜は想った。

 先頭を走る水城は後ろで何が起こっているかなど解る事は出来なくて、一気に駆け出していた。


 外はもう朝日が昇っていた。雨は止んでいた。みんな寝不足だった。立ちふさがる流れ落ちる滝。そこの細い足場に気をつけながら進む。奥の方で崩れ落ちた岩の音が耳に届いてホッと息をつく。何とか五人は無事洞窟から出る事が出来たのであった。

 五人は、もうクタクタであった。

 かえでは、徹夜明けの目を擦りながら、地面に座り込み青空を仰いでいた。水城は、ポシェットから隠し持っていた非常食を他の四人に配り始めていた。叶は寝っ転がって、今にも閉じそうな目蓋を開けたり閉じたりしながら何とか意識を保とうとしていた。

 朔夜は、グッタリとした少年の顔を叩いて意識を回復させようとしていた。

 どう云う訳か、少年は目を醒まさない。あの光の束が影響しているのか?とも思ったが、それを見たのは、最後部を走っていた朔夜にしか見る事が適わなかった為、他の者に話したところで理解できないだろう。だから、何も言わずにただ覚醒させる為の行為を行った。

 その内、朔夜が何をやっているかを他の三人は集まって見守りはじめた。

「何や起きんのか?」

 叶は、朔夜に問いかけるが、朔夜は何も言わずにとにかく行為を続ける。

「待っとれ、そこの滝の水汲んでくるさかい」

 目を醒まさせるにはそれが一番良いと思ったのか?叶は、水城の水筒の蓋を借りて水を汲んでいた。そして、額に掛けた。

 かえでは批判したが、叶は珍しく何も言わずにジッと少年の表情を見守っていた。すると、少年の目が薄っすらと開かれた。四人が集まって自らを見守っている事に気がつき、少年はハッと我に返った。気恥ずかしいとでも言わんばかりに、顔を赤く染めている。

「良かった〜」

 かえでが、ホッと息をついた時、

「ゴロゴロ、ミャ〜ゴ」

 と、鳴き声が響いた。

「?」

 描の鳴き声が耳に入り周りを見回したが、何処にもその気配がない。すると、もう一度同じように鴫き声が聴こえる。それが、少年の所から聴こえた事に気がつき、みんなが少年を見た。

「ここから聴こえたよね?」

 水城も少年をジッと見た。

「うん。確かに。ここからだよね?」

 かえでも不思議そうにジッと少年を見た。

 少年は、何か胸の所で蠢く物に気がつき、羽織をまさぐった。いつの間にか、猫が……いや、猫にしては、足が太い。虎の子供……が顔を覗かせた。

「可愛いー!」

 かえではその猫の両腕を取り上げ、抱きかかえた。それを見て水城も頭を撫でた。

「朔夜?どう言うこっちゃ?これは……」

「この子は、多分ミズチの化身ですよ。占夢でこの世に生まれ変わったのだと」

「ミズチ……これが?」

 かえでは目を丸くして、その会話の一部を聞き取っていた。

「ちゅうことは、占夢は成功したっちゅうこっちゃな!凄いで!おい!」

 バン、バン、と朔夜の背中を叩く叶。その度に身体が謡れ動き、痛いと朔夜は言ったが、叶は耳を貸さなかった。

「成功したと言う事は……私は、もう死ぬことができると言う事でしょうか?」

 少年は、何とも不思議だといわんばかりに、目を見開いた。色素の薄いその瞳が朔夜を見詰めていた。

「死ぬと言う言葉は控えた方が良いですよ?成長する。そう言って下さった方がこの赤ちゃんは救われますから」

 朔夜に、占夢時に培った物を想い返しながら少年にそう伝えた。

 少年も、それを感じ取ったのか、もう二度とその言葉は使わなかった。そして、五人はこの場を立ち去る事にした。


「なあ、少年?俺らの事、話さなあかんな?」

 弥山を降りる為のロープウェイの中で叶は、これで少年の件は全て解決したと思っていた。そして早速言葉を発した。確かに、この旅は五行捜しの旅だ。一時を争うと云う時のその大切な時間を丸一日潰してしまった。もし、この少年が自分達が捜している五行の者ならば、ここで仲間にしておかなければならない。

「そうですね。お話を聞きましょう」


 少年は叶が話すべき事を全て聞いた。そして、

「私は、水を司る陰陽師。それは確かじゃけど。しかし、あなた方が捜していると云う陰陽師である証は有りません。そんなお告げを聞いた事も有りませんし……」

 少年は、千年以上前から生きていた。そんな長い時間生きていて、何の予言も聞いてないとあっちゃどうすることも出来ない。証はない……だけど、叶は思った。確かにこの場所に、宮島に陰陽師がいるはず。この少年以外考えられないではないか?

 だから、

「なら、一時俺達と行動を共にしてもらうっちゅう事にしてもらえんやろか?俺らはこれからまだ捜さなあかん陰陽師がおる。それに、この場所で独りおるのも何やろ?これも何かの縁や、食事代も旅費もこの俺が出してやるさかい。どや?」

 叶にしては珍しく気の効いた言葉を掛けた。

 それを見ていたかえでは、

「あんた子持ちになる気?」

 と茶々を入れたが、

「え?かえでちゃんがこの子の面倒見てくれるんとちゃうんか?」

 と、舌を出して問い返す。

 水城は思わず『プッ』と吹き出した。朔夜は笑いを押し止めている。肩が震えていた。

「もう!解かったわよ!ただし、この子の為にするんだからね、叶。あんたの為にするんじゃないわよ!」

 かえでは憤慨しながら、腕組みし『ツン』とロープウェイの窓の外を見た。

 そんな時、朔夜の携帯電話が鳴った。

「あ、域戸君……はい。はい。解りました。では広身駅で」

 静かに電話を切った。

「何や?直紀から電話かいな。で、こっちに着いたんか?」

「そうらしいですよ。昨日着いたらしいんですが、こっちに電波が届かなかったみたいですね」

 山奥にいたから、届くはずはないわな。と、叶は思った。

「しかし、疲れたわね?少し何処かで休みたいものだわ」

「賛成!水城も疲れちゃった!」

 女二人にそう言われると、叶は仕方ないなと、宮島を出たら一度休む為に何処かの旅館か、ホテルを取ろうと言い出した。朔夜もそれに賛成した。

 自らも長い占夢で体が疲れ切っている。あれを占夢とは思えないが……

 そんな中、一人、疲れた身体を感じながら水城は頭を傾げた。中国通の知識を持っている水城としては、納得が出来ない事があった。

 白虎に似た容貌のミズチは確か、金の属性の保護の元に生を受けたはず。水を元素としているのは玄武という伝説の生きもの。そして北を護る守護神。それなのに、この少年は水を元素とする陰陽師だと言う。何かの間違えなのだろうか?それとも、日本古来のミズチはこういうモノなんだろうか?ちょっと引っ掛かってはいたが、まあ良いかと、朔夜達の後について行ったのである。


 一行は、取り敢えず宮島を離れると、JR広島駅の近くにあるホテルに宿を取った。

「ところで、あんさんの名前考えとったんやけど、水の陰陽師っちゅう事もあったし、これから先の事も兼ねてなんやけど、『潤』ってのはどうや?」

 叶は少し照れながら話を切り出した。漢字はこう書くねん。とメモ帳を取り出しそれに力強く書きなぐった。

 男三人、女二人別の部屋を借りたそんな、男三人の間で話が始まった。

「潤。ですか?良いですね。その名前は」

 朔夜は意外に思ったのか、叶を見直したように返すと、少年を見た。

 少年は瞬時、以前自ら育てた赤子の潤を思い出した。自らが付けた名前であり、思い出が一杯詰まった名前。自らの名前は忘れても、あの赤子の事は今でも鮮明に思い出す事が出来た。

 何と云う偶然だろうと思った。自らその事は叶や朔夜達には伝えていない。その名前が今自らの名前になる?だから少年はコクンと頷いた。

「決まりやな!名宇はどないしよ?それに、ミズチにも名前付けてやらんとなあ〜」

 そんな矢先、コンコンとトリプルの部屋のドアを叩く音が聴こえてきた。そのドアの先にいたのはかえでであった。

「ちょっと良いかな?キミ、キミちょっとおいでよ!」

 ドア先のかえでは、両手に大きな紙袋をひっ下げていた。

「なんやねん。かえでちゃん?お言葉を返すけどな、キミじゃなくて、潤なの!こん子は!」

 珍しく不機嫌な叶に相反し、上機嫌のかえでは、

「あんたに用事じゃないのよ。黙ってなさいよね。え〜と潤君?こっちおいで〜」

 かえでは猫なで声で、潤を呼ぶと自らの部屋に来るように言った。

「なんやろな?あの態度……でも、あんなに楽しそうにしているかえでちゃんは珍しいかも〜」

 叶は、朔夜に向ってぼやいた。しかし朔夜は何だか楽しそうにしている限りは安心だろうとそう思っていたのである。そういう朔夜ほミズチを抱きかかえていた。ミズチは静かに寝息を立てている。しかし、かえでのあの嬉しそうな態度がなんであるのか、じきこの部屋に少年が帰って来た時に理解出来た。


「!」


 二人は目を丸くして澗を見た。潤も何だか不自然に緊張しているみたいだった。

「こう云う事かいな……」

 叶は、少年が、かえでの着せ替え人形になっていることに気が付いたのである。

 あの、身汚い時代錯誤な服装を一変しているのは良いとしてだ。なんで半ズボン?この薄ら寒い時期に……スラッとした色白い脚が露わになっている。それに、長い髪を一つに車ねた所には、髪の色に映える緑色のリボンが……

「頭が痛い……朔夜、俺寝るわ……後、よろしゅうな……」

 ベッドにいきなりドガッとうつ伏せに飛び込んだ。そうは云われても……と朔夜は苦笑いした。電池が切れたように、眠りに就く叶。よほど疲れていたらしい。

「私……やはり変じゃろか?」

 朔夜は戸惑ったが、まあ、かえでの趣向だし……半ズボンは、少年の歳からしたらちょっと不自然だけど、見た目の歳相応の服装ではある。だから、

「似合ってますよ。そうですね……自分を呼ぶ時『私』ではなく『ボク』と言った方が良いかも知れませんね?」

 朔夜はクスリと笑って少年の頭を撫でた。

「ボク?じゃろか?」

「そうですよ。その方が良いですね?今から少年時代をやり直すのも悪く有りませんし。そうしましょう。それに、この時代を難無く過ごすのに良い事だと思いますよ?」

 朔夜は現代版少年の像を思い描いた。それならば、変ではない。リボンは別にしても……

「じゃあ、少し休みましょうか?城戸君にもここを知らせておきましたから、その内来るでしょうし、その間に充分休息しましょうね?」

 三人はそうして時間を有劾に使った。

 

 今はゆっくり休みたい。

 心は夢の中に落ちて行く。そして、何故かハームの声を聞いた気がした。

「都住朔夜よ……汝が宿命を受け入れるのは後僅か……それまでゆっくり休養せよ……ガハハハハハハハ……」

 笑い声は、いつ迄続いたのか?それすら覚えていない。でも、この眠りを失いたくない。そしてゆっくり夢の中を感じていたかった。それが今自分に一番必要な事に感じられたからであった。


2004.09.27


長い事眠らせておいたので、此処に上げるのはどうかとは想いましたが、この続きもあることだし、またちょっとお時間いただくこととなりますが、お付き合い頂ければ嬉しいです。次は、伍ノ巻でお会いいたしましょう。

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